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ダイヤモンドを欠けから保護する方法


欠けたダイアモンド
ダイヤモンドはその硬度、つまり傷や摩耗に強いということで知られている。 しかしその硬度は結晶方向に沿って不均一であるため、絶対に損傷を受けないというわけではない。 これは、ガードルからキューレットまで欠けがある1.05カラットのダイヤモンドの写真である。 写真: ©GIA

ダイヤモンドの耐久性

宝石は、その美しさ、稀少性、耐久性に価値が認められています。 耐久性とは、摩耗、熱、化学薬品に耐え得る宝石の能力です。 耐久性の概念は、3つの特性で構成されています。

  • 硬度:宝石の傷や磨耗に対する強さ
  • 靭性:宝石の割れや欠けに対する強さ
  • 安定性:宝石の化学物質や熱に対する強さ

ダイヤモンドは、安定性と硬性は非常に高いのですが、靱性のみがやや劣ります。 硬性は結晶の異なる方向に沿って不均一であり、これはダイヤモンドの様々な形状のカットプロセスおよび耐久性の両方に重要な意味を持ちます。

硬度
ダイヤモンドの硬性は、非常にコンパクトな結晶構造によるものです。 「ダイヤモンドには炭化物に比べ、5倍の圧痕性または傷に対する硬性があります。 [図1]は、モーススケール [sic]およびヌープスケールを尺度として他の素材と比較した際のダイヤモンドの硬度を示しています。 しかし衝撃から保護されずに取り扱われると、ダイヤモンドは比較的脆く、欠けやフラクチャ―が発生します」 (V. C. Venkatesh/S. Izman著、Precision Engineering(精密工学)、2007年、P.50) ダイヤモンドは、モーススケールおよびヌープスケールのいずれの尺度においても最高の硬度を示す既知の天然鉱物です。これらの尺度は、低硬度素材に対して高硬度素材が示す傷に対する強さの指標です。

モーススケールとヌープスケール
図1. モーススケールとヌープスケールの比較
、ピラミッド型ダイヤモンド鋭点が
指定された時間既知の負荷で試料の研磨表面に押し込まれる微小硬度試験、および
結果のインデントを顕微鏡を用いて測定する。 V. C. Venkatesh/S. Izman著 、
Precision Engineering(精密工学)2007年、p. 50からの修正入りイラストレーション。

安定性
ダイヤモンドは、ほぼ全ての酸に対して非常に安定し、脆弱性はありません。 高温に対する強さはほとんどの宝石を上回ります。 しかし、突然の極端な温度変化が損傷を引き起こす可能性もあるのです。
 
靱性
ダイヤモンドには強烈な衝撃により、特に炭素原子がしっかりと結合していない部分で欠けまたはフラクチャ―が発生する可能性があります。 劈開面と呼ばれるこれらの部分で主にダイヤモンドの損傷が発生します。(図2) 科学文献で使用される靭性の尺度はフラクチャー靭性スケールと呼ばれていますが、それは宝石学にはほとんど記載されていません。 靭性スケールにより、特定の結晶面に沿った結晶両面の分離に必要な労力(エルグ/cm2)が計測されます。 ダイヤモンドの数値は一般的に、5,000(劈開面に沿って)から8,000(最硬度方向において)超の間にあります。 ネフライトの数値225,000や ジェダイトの数値120,000と比較すると硬度は劣り、コランダムの数値600と比較すると硬度は上です。

密集した列に配置された炭素原子
図2. びっしりと詰まった列に炭素原子が配列されている。 炭素原子が最も密集して配列されている方向では、ダイヤモンドを割ることは非常に困難である。 原子は平面上にも並んでいることにも注意しなくてはならない。 平面間の距離は、炭素原子間の他の距離よりも大きい。 原子が平面上に並ぶ方向では、ある程度の困難はあるものの、ダイヤモンドを割ることはできる。 これらの方向は、劈開面と呼ばれる。 イラスト:Al Gilbertson、© GIA

靭性:ダイヤモンドのアキレス腱

ダイヤモンドが最も硬い天然素材であっても、通常の着用中に欠けやフラクチャーが発生する可能性はあります。 ダイヤモンドは立方結晶構造からなり、完全な四劈開方向を有しています。 劈開面は、結晶の分子配列で最も脆弱な方向です。 ダイヤモンドは原子が緊密に結合している方向にはより強靭ですが、結合がゆるい方向では靭性は劣ります。 天然ダイヤモンド結晶の最も一般的な形態は、八面体(図3)であり、その典型的な形状に力点を置いています。 劈開とは、三角形八面体の面の一つと平行のダイヤモンド結晶の分離です。 完璧な例ではありませんが、木材を対照にあげるてみると、木材は斧によって簡単に割れる単一の木目を有します。 天然ダイヤモンド結晶は、三角形八面体の面の一つにのみ平行開裂できます。(図4)

ダイヤモンド結晶の八面体のイラスト
図3. 理想化された八面体。 イラスト:Al Gilbertson、© GIA
劈開面は八面体の三角形面に平行である。
図 4. 劈開面は八面体の三角形面に平行である。 イラスト: V. C. Venkatesh/S. Izman著、Precision Engineering(精密工学)、2007年、54ページからの編集

ダイヤモンドは八面体結晶の特定方向に沿って硬くかつ強靭であるため、それらは、欠け、摩耗、またはこれらの方向に沿った他のダイヤモンドのカットに対してより抵抗力があります。(図5) 硬度が劣る方向もあります。(図6) 歴史的に有名なダイヤモンドの一部は、劈開前のプランニングに何ヶ月も費やされました。外部部分結晶形が八面体方向を見えなくしていたからです。

ハード方向に矢印を示す八面体
図 5. これらはダイヤモンド結晶のハード方向であり、カット技師にとって最も困難な方向である。 イラスト:Al Gilbertson、© GIA
ソフト方向に矢印を示す八面体
図 6. これらのソフト方向はカッターにとって作業しやすい方向である。 イラスト:Al Gilbertson、© GIA

ダイヤモンドの劈開は現在ではほとんど行われていません。 通常はソーイング、より最近にいたってはレーザーによるカットが行われています。 しかし、カット技師はカットプランニングにあたり、依然として劈開面の位置および困難な研磨方向とそうでない研磨方向を把握しなければなりません。 一般的に八面体により、結晶内の特定の場所からラウンドブリリアントが生み出されます。(図7)

八面体結晶中のラウンドブリリアントダイヤモンド
図 7. 八面体結晶からカットすると、ラウンドブリリアントカットの外縁部は元の八面体の外縁部にまでほぼ達することになる。 イラスト:Al Gilbertson、© GIA

プランニング段階において、鋸が頂部のカットに使用され、他のダイヤモンドのカットにも利用できます。 典型的なラウンドブリリアントカットのクラウン(トップ)は、典型的なプリンセスカットよりわずかに高いことに注意してください。 結晶から二つのプリンセスカットダイヤモンドを作りたいとカット技師が考えた場合、二つのラウンドカット時と比べてプランニングがわずかに異なります。(図8)

低い面と高い面を示す八面体結晶
図 8. カットの際、下面(下の赤い線)でカットをすると、最終的に二つのプリンセスカットダイヤモンドを得ることができる。 結晶からラウンドブリリアントにカットされる場合には、カットラインはより高いライン(上の赤線)になる。 イラスト:Al Gilbertson、© GIA

ダイヤモンドは、原子の結合が緊密な方向はより強靭で、結合がゆるい方向では靭性が劣ることを忘れないでください。 プリンセスカットの角部分を見てみましょう。劈開面に近接しているので、欠けに対して非常に脆弱です。 先鋭な角やエッジをもつこのようなカットスタイルは、多くの場合、角を欠けから保護するために爪留めでセットされます。 それでも、プリンセスカットの角部の爪留めに対する強い衝撃(図9)が欠けを発生させ、ダイヤモンドのサイドの縮小を余儀なくされる場合があります。 この場所は必ずしも炭素原子が最も遠く離れている劈開面というわけではなく、非常に近い場所です。 欠け発生時、それらが平滑な劈開面のように見えることはめったにありません。 劈開面に直接存在しているわけではないので、むしろ階段状に見えます。(図10および11)

プリンセスカットダイヤモンド
図 9. プリンセスカットの角部分は劈開面に近接しているため、欠けに対して非常に脆弱である。 イラスト:Al Gilbertson、© GIA
プリンセスカットのダイヤモンドの角の欠け
図 10. このプリンセスカットのダイヤモンドの角の欠けは、劈開面に近接しているが直面してないので、階段状に見える。 写真:James Gibson、© GIA
プリンセスカット ダイヤモンドの欠け
図 11. 欠けは通常、階段状に見える。 写真:Mitch Lam、© GIA

ダイヤモンドの欠けリスクを最小限に抑える方法

ダイヤモンドのガードル(エッジ)や鋭点が何か硬い物に衝突する時が、典型的な欠けの発生ケースです。 バスルームやキッチンカウンター、隣接して着用しているダイヤモンドジュエリーアイテムなどが欠けの一般的な原因です。

1. 鋭点や鋭角を持つ形状物を避ける
鋭点や鋭角を持つダイヤモンドは、形状を問わず、その箇所での欠けリスクにより多く曝されています。(図11および12) 円形、楕円形、曲線角クッション形状には鋭点・鋭角欠けリスクはありません。 面取りと呼ばれるより最近のカット技術が一部のダイヤモンド取引で使用され、プリンセスカットの耐久性を向上させると考えられています。 面取りにより角に超小型のフラットファセットが施されます。(図13)

鋭点となった角の余分なファセット
図 12. エメラルドカット、トライアングルシェイプ、ラディアント、プリンセスカットの角は欠けるリスクが高いため、そのリスクを最小限にするためにガードルを十分に厚くする必要がある。 ここでは、プリンセスカットの角にある余分なファセットによりその角が鋭点となり、欠けるリスクが非常に高まっている。 写真:James Gibson、イラスト:Al Gilbertson、© GIA
プリンセスカットの面取りされた角
図 13. プリンセスカットの面取りされた角の小さなファセットは非常に小さく、拡大しないとほとんど見ることができない。 写真:Jonathon Muyal、イラスト:Al Gilbertson、© GIA

2. キューレットの保護
かつては、ほとんどすべての標準的なラウンドブリリアントカットや他の多くの形状のダイヤモンドカットには、キューレットに小さなファセットが施されていました。 これは、キューレットを欠けから保護するためでした。 現在ほとんどのダイヤモンドはキューレットに鋭点があり、それゆえ鋭点を持つすべてのキューレットは脆弱です。(図14) ですが、一旦ジュエリーにセットされると、キューレットの損傷リスクはほとんどありません。 

尖ったキューレットの欠け
図 14. 尖ったキューレットは、ダイヤモンドが緩んでいてストーンペーパー内で互いに衝突するときに欠けやすい。 写真:James Gibson、© GIA

3. 極薄片のガードルを避ける
強い衝撃でダイヤモンドがガードル部で割れる可能性がある一方、ガードルが厚いと欠ける可能性が減少します。 側面沿いまたは角・鋭点部に極薄箇所のあるガードルは、損傷リスクがはるかに高くなります。(図15および16)

ガードル上にナイフエッジ部分があるマーキス
図 15. 極薄ガードルでは欠けのリスクが極端に高まる。 ごく簡単に欠ける可能性のあるナイフエッジ部分がこのマーキスカットのガードルに存在する。 写真:Leo Ochoa、イラスト:Al Gilbertson、© GIA
薄いガードルと2つの欠けがあるエメラルドカット
図 16. 極薄ガードルのこのエメラルドカットには2つの欠けがある。 写真:Leo Ochoa、イラスト:Al Gilbertson、© GIA

4. ダイヤモンドを保護するセッティングを選ぶ
脆弱点または脆弱角は、ベゼル、部分ベゼル、あるいはV字型プロングセットで保護機能が高まります。 

5. テンションセッティングには十分に注意する
ガードルが収まる金属への溝掘りを施すことにより、テンションセッティングはしっかりとダイヤモンドを保持し、リングの両端がダイヤモンドの側面に対して強く押し付けられます。 テンションセッティングの経験が豊富な宝石職人は、このダイヤモンドセット加工に際してガードルの状態に相当な配慮を払います。
 
取り付け台によりガードル上の2つの対向する箇所でダイヤモンドに対する押し付け圧力がすでに発生しています。 リングの側面に対する衝撃で、ガードルにさらなる圧力が発生します。 このスタイルはまた、ただのカジュアルな着用の際にもダイヤモンドの露出側面を損傷に対して脆弱にします。 

6. 定期的にプロングの損傷検査を行う
欠けのごく一般的な原因は、ジュエリーの所定の位置に宝石を保持しているプロングが曲がったり折れたりすることです。 取り付け台上のダイヤモンドが緩んでいる場合、欠けのリスクが高まります。 プロングはダイヤモンドの角、鋭点、側面を保護します。 プロングが着用や裂傷により曲がったり折れたりした場合、あなたのダイヤモンドを保護するという役目を果たしていません。
 
プロングがたったひとつ破損しただけでも、取り付け台のダイヤモンドはもはや安全とは言えません。

7. すでに欠けているダイヤモンドは着用しない
ダイヤモンドにすでに欠けがある場合、後で取り付け台を修繕することができると考える人もいます。 ナイフのように鋭い欠けたダイヤモンドのエッジ部分は、さらに欠けて事態が一層悪化する可能性が非常に高いのです。 修繕するまでそれを身に着けないでください。 

8. ガードル近くの内包物に注意する
ガードルおよび/または鋭点近くの多くの内包物があるダイヤモンドは欠けや割れが発生しやすいことが明確になってきています。 しかし時として、ダイヤモンドを脆弱にする小さなフェザーや他の微小内包物がガードルや鋭点近くに存在する可能性もあります。(図17および18) 劈開面方向近く、あるいはその場所のフェザーまたは内包物上でそのダイヤモンドに衝撃が正確に加わった場合、欠けが発生する可能性が高いです。 ガードルのオープンキャビティ(凹み)は欠けのようなもので、より簡単に破損します。(図19)

プリンセスカットのフェザーのクラスター
図 17. このプリンセスカットの角にあるフェザーの小さなクラスターが
ダイヤモンドのセット時またはその着用時に、高いリスクをもたらす。 写真:Mitch Lam, © GIA.
ラディアントカットダイヤモンドの大きなフェザー
図 18. この放射カットの角にはさらに損傷リスクを加える大きなフェザーが
ある。 写真:Mitch Lam, © GIA.
ガードルのオープンキャビティ
図 19. ガードルのオープンキャビティにより欠けに対する脆弱性がこの厚いガードルに加わる。 写真:Mitch Lam, © GIA.

完璧な靭性などというものはありません。 十分に強い衝撃が加わった場合には、どんな宝石でも欠けるだけではなく割れることがあります。 ダイヤモンドの靭性は非常に強いのですが、適切な方向に鋭い衝撃を加えることによりカット技師が意図的にダイヤモンドを劈開(分割)することができるのならば、誤ってかなり強い衝撃を与えてしまった場合に同じことが起こる可能性があることを頭に入れておいてください。 ダイヤモンドのガードルや鋭点が損傷する可能性はより高いです。 そのガードル上に極薄部があるダイヤモンドは非常に脆弱です。 損傷を避けるためには、硬いものにぶつけてしまう可能性がない行動をするときだけ、ダイヤモンドジュエリーを着用してください。