ストーリーに秘められた真相:
2013年の現地調査で明らかになった中国
11月 18, 2013

宝石と宝飾品の視察をするために中国へ行こうと思いついたのは、多くの業界のアイデアと同様に二人の同僚がトレード ショーを歩いていたときでした。
GIAフィールド ジェモロジィのマネージャーであるAndrew Lucasと、Gems & Gemology(宝石と宝石学)のGIAテクニカル編集者であるTao Hsu博士は、GIAの教育コースの教材として使用するカラーストーン産業に関する最新情報を収集するために2013 Tucson gem show(2013年ツーソン ジェム ショー)に参加しました。当時、HsuはGIAに参加したばかりであり、Lucasは彼女が中国の北京で生まれ育ち、China University of Geosciences(中国地質大学)より宝石学の学位を取得したことを知りました。彼女はすぐに中国の宝石・宝飾業界に関する情報を彼に説明しました。
彼女は北京出身であり、中国語が堪能であるため、GIAが中国の産業を文書化するのに絶好の機会になるだろうことに彼らはまもなく気が付きました。数ヶ月後、Hsu、Lucas、GIAでビデオ プロデューサーを務めるPedro Padua、GIAのカメラマンEric Welchを含むチームが、中国の宝石・宝飾業界の大企業および小企業を訪れる3週間の旅へと出発しました。
何が製造されているのか?誰に販売しているのか?国内市場はどのような状況か?取引チャネルと小売チャネルは何か?このような疑問をもとに、彼らは中国の産業についてできるだけ多くのことを学ぶ決心をしました。彼らはダイヤモンドのカッティング、カラーストーン(カッティングと取引)、ジェード ジュエリー製造の工場の他、業界におけるさまざまな形態の卸売市場や小売業態を訪問しました。

Lucasは、中国で見て学んだ多くのことに驚きましたが、業界の成長、規模、優れた才能を有する人材、そして何よりも訪問した際に出会った人々の温かいもてなしが最も心に残った、と語ります。
「私は世界中を旅して、素晴らしいもてなしを受けて、多くの人と親しくなりましたが、中国ほど感銘を受けた国はありませんでした。自分の仕事について信じられないほど皆さんがオープンで率直でした。私は『この国が大好きです』といつも言っていました」とLucasは説明します。
発見の旅
中国における現代的なジュエリー産業は約30年前に始まったばかりですが、中国のジュエリーには長い歴史がある、とHsuは語ります。
「中国人は3,000年前に人々や衣類を飾るために金を使い始めました。ジェードには、もっと長い歴史があります。1912年以前は、一般人向けではなく皇室御用達に石を販売する小規模の商店やアトリエがありました。今とは全く異なる様式でした。1930年代以降、中国は第二次世界大戦そして文化大革命を通して約50年間という長い激動の時代を経験しました。この50年の間、宝飾業界は全く発展しませんでした。」
「1978年に市場が再び開放されると、すべてが変わりました。その後、中国の人々は西洋からジュエリーのビジネスを運営する方法について学び始めました。これは、中国の産業にとって新しい時代です」と彼女は説明します。
中国の宝石・宝飾業界は、多くの大学で専攻として提供されている宝石学で学士号、修士号、博士号を持つ大勢の人々によって支えられている、とHsuは述べます。そして、このような卒業生のための機会は、年々増加しています。
「私が10年前に卒業したとき、宝飾業界でビジネスを始めるという野心を持っていた人はほとんどいませんでした。しかし、現在は多くの人々がそのような夢を抱いており、それを実現するためにすぐに行動にうつります。それは、経済と市場が急速に成長し、多くのチャンスを掴むことが可能であると理解しているからです」と彼女は説明します。
「自分自身で何かを始めるのはそれほど難しいことではありません。広い視野をもつことと個人的ビジョンを持つことは一体となって作用するのです」とHsuは語ります。
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GIAのチームが宝飾業界について学ぶために中国を訪問するにあたり、以前に宝石学を一緒に学習した同窓生とのつながりが最も重要な要素の一つであった、とLucasは述べます。
「Taoは、かつてのクラスメートや業界での知り合いに連絡を取り、この冒険的な旅を見事に計画し、実現させました。現地での移動など、必要なことは何でも手伝いたいと皆さんが言ってくれました。インタビューをするために訪問したとき、これはまさしくその通りでした。彼らは『この人には絶対に会うべき』とか『これをお手伝いできます』などと言ってくれるのです。これは、もてなしの一部になっているのです」とLucasは説明します。
GIAチームは、広東省深セン市番禺区坪洲(世界の宝飾品製造業の中心であると多くの人に信じられている場所)から上海(業界の商業面を理解する目的)、そして北京(小売業者や高級品の製造業に関して記録する目的)に移動しました。
Lucasは言います。「深セン市から広州市まで、私たちはカラーストーン、ジェード、宝飾品、ダイヤモンドの大量生産と取引を目撃しました。業界の絶大なる規模には圧倒されました。私たちの周りは、工場、取引促進のためのトレード センターや団体、取引および小売業を援助する政府機関で溢れていました。」
「中国が世界に宝飾品を供給しているのです」と彼は述べました。「深セン市には世界最大の24Kの宝飾品製造業者(昨年中国だけで24Kの宝飾品を200トン販売)、世界最大のダイヤモンドのセッティング製造業者、世界最大のカラーストーン製造業者の一つがあります。」
「中国は金の主要消費者としてつい最近インドを上回りました。また、世界第二位の経済大国でもあり、中国の宝石・宝飾品市場と高級品市場は世界第二位とされています」とLucasは説明します。一つの宝飾品小売業者チェーンが数千店舗を持っていることもあります。
China Diamond Exchange Center(中国ダイヤモンド交易センター)は、原石およびカットされたすべてのダイヤモンドが中国に入ってくる場所である。
写真提供:中国ダイヤモンド交易センター
「この成長はすべて過去30年の間に起こりました」とHsuは述べます。
その成長力は上海で最も明らかに見られました、とLucasは付け加えます。
「市内の至る所で巨大な経済力を感じ取ることができました。これは、中国ダイヤモンド取引所でもまさしく同じでした。Diamond Administration of China(中国ダイヤモンド管理協会)のLi Mu副会長が、中国のダイヤモンド業界の歴史と仕組みについて詳しく説明してくださいました。」
また、Li Mu副会長は、ダイヤモンド ジュエリーの大手小売業者およびインターネット事業者であるZbirdへGIAのチームが訪問できるよう手配してくださいました。Zbirdを訪問した際、Lucasはブライダル ジュエリー市場について多くを学んだと述べました。
「中国では、プラチナは人間関係から感じ取れる純粋さを象徴するため、中国が世界のプラチナの68%を消費していることを知りませんでした。プラチナは中国の消費者の性格にぴったりと合うため、すぐに受け入れられ、大人気商品となっています」とLucasは説明します。
人々の視点
この旅を通じて、チームは、会社経営者やデザイナー、製造業者と会うことができました。彼らは自身の会社や製品、生活に関する情報を喜んで教えてくれました。
「人々は自分たちの業界を誇りに思っており、その業界を私たちに見せたかったのです」とLucasは述べます。「彼らは私たちにできる限り多くのことを見て欲しかったのです。彼らはアイデアを共有することを望んでいました。ほとんどの人々が、米国の生活について非常に興味を持っており、中国での生活と比較していました。彼らは、私たちが彼らについてどう思っているか、そして米国の政府について私たちがどう感じているかについて知りたいと思っていました。」
「彼らの社会や文化に敬意を持っていると気付いた途端、簡単にすぐ友人になることができました」とLucasは語ります。
Lucasが出会った人々について気付いたもう一つの強い特徴は、特に20代の若者達が教育や知識を得ることに非常に貪欲であるということでした。
「彼らは、ビジネスで成功を収めることだけでなく、あらゆることで優れた結果を出すための集中力と野心で溢れていました。工場でもそれが伺えました。彼らの集中力は驚くべきものでした。目標に対するビジョンを持ち、一生懸命に働き、忍耐力を持っています。人々が中国の将来に対して多大な自信を持っているのが分かりました」とLucasは説明します。
イノベーションの明確な意識
中国は長年にわたり「偽物の国」として非難されてきましたが、訪問した製造業者の施設では品質と細部にこだわる革新や配慮が多く見られたと、Lucasは語ります。
「彼らは、欧米でかつて行われていた製造業の試みや真のモデルを上手く活用すると思いますが、さらに効率的に業務を運営できるようにさまざまな改良や改善を取り入れるでしょう。依然として多くの人々が雇用されているものの、多くの業界は、大量の労働者を雇用して製造を行う代わりに最先端の製造技術に移行しています」とLucasは説明します。
革新に対するその意識は、彼らが出会ったデザイナーでも一目瞭然でした。
「彼らは西洋を模倣しているだけと思われているかもしれませんが、そうではありません。私が出会ったジェイダイトのデザイナーは、自然や自分の文化、その他に学んだことなどからインスピレーションを受けて、それに自分のデザイン要素を付け加えて、すべてを融合させています。」
「デザインとスタイルの中に多くの革新が確認できました。芸術的なビジョンや技術に個性や独創性の要素が含まれていました」とLucasは述べます。
ジェードによる反映
GIAのチームにとって最も忘れられない経験の一つは、広東省坪洲と四会のジェード産業を記録するために過ごした2日間でした。
「ジェード産業は非常に魅力的でした。西洋人が頻繁に目にするものではありませんでした」と人々がジェードに精神的および文化的なつながりを持っていることに驚いたLucasは述べます。
Hsuによると、ジェードには主に2つの素材があります。ひとつはその歴史が数千年前までにも遡るネフライトであり、もうひとつは1870年頃に初めて輸入されたジェイダイトです。ジェードは簡単に成形できるため、人々は道具を作るためにジェードを使用し始めましたが、他の石と比べて綺麗であることからさまざまな儀式で礼器として使用されるようになった、と彼女は説明します。
「ジェードはさまざまな儀式で祖先を崇拝するために使われていました。その後、徐々に装飾品として使用されるようになり、人々は多くの意味を与えるために彫刻を施すようになりました」と彼女は語ります。その模様は徐々に進化しました。伝統的な模様や形状には、平和や幸運などを表すさまざまな意味があります。
「私たちはジェードで遊びます。ジェードは外出する時に着用するような宝飾品ではありません。毎日、手に取って遊ぶのです。人々は、自分たちがジェードの一部であり、ジェードが自分たちの一部であると考えています。完全に一体化しているのです」と彼女は述べます。
中国人はジェードの質感や色をこよなく愛していますが、理由が何であれジェードを好んでいるのです。例えば、ジェードに触れると気分が良くなるという理由で好んでいる人もいるのです。「私たちはジェードがこのように見えるように自然が生み出す力を崇拝しています」と彼女は語ります。
Hsuによると、ジェードは中国人を反映するものでもあります。
「中国人は非常に保守的ですが、それはジェードも同じです。ジェードは私たちの性格と一致するのです。煌めいていなく、透明でないので、簡単には透かして見ることはできません。この点も多くの中国人に当てはまります。中国人も保守的であるので、すぐに見抜くことはできません。私たちの文化と伝統のため、そのようであることを望むのです。」
「ネフライトを見ると、そのようでありたいと思うでしょう」と彼女は説明します。
消費者市場
GIAチームは、中国の宝飾品の製造業者を内部から探るだけでなく、中国の消費者を明確に理解することができました。
「今回の旅で本当に素晴らしかったことは、国内消費の著しい成長を見れたことでした。中国の消費者は、あらゆる事に興味を持っているのです」とLucasは語ります。
それは、中国人が世界を旅して、人々が身に着けているさまざまな種類の宝石や素材を見る機会があったからである、とHsuは説明します。「人々がそれらを持ち帰って、より多くの人々がこれらの素材を知るようになりました。」
「このわずか5~10年間で、人々はカラーストーンの美しさに気づき始めました。彼らがそれに気付くと、市場は爆発的に成長しました」と彼女は述べます。
Lucasは、カラーストーンの売上が成長し続けることに非常に期待しています。なぜなら1980年代に中国で生まれた人々の数は、米国のベビーブーマー市場の3倍もあるためです。
「なので、この視察の旅に行くことがとても重要だったのです。中国人は丁重で親切なだけでなく、宝石・宝飾業界がこれからも繁栄し続けることに一端を担う力を持っています」とLucasは述べます。
Amanda J. LukeはGIAのシニア コミュニケーション マネージャーです。彼女は現在GIA Insider(GIA インサイダー)とAlum Connect(アルム コネクト)の編集者であり、The Loupe(ルーペ誌)の元編集者でもあります。