HPHT法およびCVD法によるダイヤモンドの成長プロセス:ラボラトリー グロウン ダイヤモンドの製造
7月 25, 2016
今日のジュエリー市場では、宝石質の合成ダイヤモンドすなわちラボラトリー グロウン ダイヤモンドが従来より入手しやすくなったため、ラボラトリー グロウン ダイヤモンドについて、あるいはジェモロジストや宝石ラボにとってこれらの鑑別が可能かどうかについて、関心や懸念が生じるようになりました。
GIAは30年以上にわたり、ラボラトリー グロウン ダイヤモンドすなわち人工ダイヤモンドについて広範囲に研究を進めてきました。このため、このようなダイヤモンドの製造方法や鑑別方法について多大な知識を有しています。合成ダイヤモンドは工場で生産したものですが、それらの化学的特性および物理的特性は、天然ダイヤモンドに非常に近いものになっています。
ラボラトリー グロウン ダイヤモンドを、模造石や類似石と呼ぶ方がいますが、これは正しくありません。キュービック ジルコニア、合成モアッサナイトのような本物の模造石は、ダイヤモンドに似た外観を持っているだけで、化学的特性および物理的特性が非常に異なるため、訓練を積んだジェモロジストは簡単に識別することができます。しかし、ラボラトリー グロウン ダイヤモンドを検出するのはより困難とされています。
場合によっては、訓練されたジェモロジストは、標準的な宝石鑑別用の装置を使用して、CVD法またはHPHT法で成長されたダイヤモンドおよび処理されたダイヤモンドを識別することができます。その一方、鑑別の際に高度な科学機器を使用してダイヤモンドを検査する必要がある場合もあります。GIAでは、さまざまな種類のダイヤモンドの宝石学的特性に関する大規模なデータベースがあり、ダイヤモンドを鑑別する新たな方法を開発するためにこのデータベースを使用しています。
ラボラトリー グロウン ダイヤモンドの誕生
科学者たちは、1950年代半ばにラボラトリーでダイヤモンドを初めて製造しました。しかし、これらのダイヤモンドはジュエリーに使用するには小さすぎました。より大きな宝石質の結晶の製造は、1990年代半ばに開始されて以来現在に至っても続いており、ますます多くの企業が合成ダイヤモンドを製造しています。合成ダイヤモンドは、ジュエリー用途と産業用途の両方を目的としていくつかの国々で製造されていますが、この素材の主な機能としては産業用途とされています(Large Colorless HPHT Synthetic Gem Diamonds from China(中国産の大きな無色HPHT合成宝石質ダイヤモンド)、Gem News International(ジェム ニュース インターナショナル)、Gems & Gemology(宝石と宝石学)、2016年春号、Vol.52、No.1)。
高圧高温(HPHT)法と呼ばれる従来のダイヤモンドの成長方法では、天然のダイヤモンドが地中で形成される高圧高温の条件を模倣した装置で炭素素材より合成ダイヤモンドが製造されます。
これより新しい方法である化学蒸着(CVD)法では、炭素含有ガスを真空チャンバーに充填させ、合成ダイヤモンド種子上に結晶化させます。この方法は、HPHT法よりも低い温度と低い圧力を使用します。現在、どちらの方法もダイヤモンドの製造に多く使用されています。CVDダイヤモンドの成長方法では、装置にかかる初期費用がHPHT法よりも低くてすみますが、ダイヤモンドの色を改善するために、製造後に処理が必要となる場合があります。
高圧高温(HPHT)ダイヤモンドとは?
HPHTとは、高圧(high-pressure)、高温(high-temperature)の略であり、ラボでダイヤモンドを成長させるために使用される主な方法の1つです。このダイヤモンド成長プロセスは、炭素に極端な高温と圧力を与え、天然ダイヤモンドが形成される地球深部における強烈な熱と圧力の条件を再現しようとするものです。
HPHTダイヤモンドの成長プロセス
- ダイヤモンド種結晶を特別に設計されたプレス型装置に配置します。
- 生成チャンバーは1平方インチあたり870,000ポンド(約40万kg)以上の圧力で、1300-1600°Cに加熱されます。
- 溶融した金属が、原料である高純度の炭素を溶解します。
- 炭素原子が小さなダイヤモンド種結晶上に沈殿し、合成ダイヤモンドが成長し始めます。
- ラボで製造された結晶は、ダイヤモンドのカッター(カット職人)がカッティングを行い、研磨します。
さらに詳しく説明すると、HPHTダイヤモンドの成長は、非常に高い圧力を発生させることが可能となる装置の内部にある小さなカプセルの中で行われます。このカプセル内では、例えばグラファイトなどにした炭素の出発原料が、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの金属から成る溶融フラックスに溶解し、温度と圧力をダイヤモンドの成長に必要なほどに下げます。その後、炭素素材が、フラックスを介してより低温のダイヤモンド種結晶へと向かって移動し、その上で結晶化することで合成ダイヤモンド結晶が形成されます。この結晶化プロセスには数日から数週間かかり、1つまたは複数の結晶が製造されます。
天然ダイヤモンド結晶は八面体で生成する傾向がありますが、HPHT合成ダイヤモンド結晶には、通常、八面体面に加えて六面体(立方体)面があります。天然ダイヤモンドとHPHT合成ダイヤモンドの結晶の形状は異なるため、内部の成長パターンも大きく異なります。これらの成長パターンは、合成ダイヤモンド結晶と天然のものとを区別する最も信頼できる方法の一つとされています。
その結果としてファセット加工された合成宝石は、多くの場合、十字形の成長部分の構造に関連する独特の色分布、蛍光ゾーニングおよびグレイニング パターンを示し、時にはフラックス金属の暗色インクルージョンが含まれていることもあります。場合によってはこの素材は、紫外線にさらした後に光源をオフにしても発光を示すという、燐光を呈することもあります。
無色のHPHT合成石を製造することは、かつて課題とされていました。窒素は、ダイヤモンドを黄色に変えてしまうため、成長環境から取り除く必要がありました。さらに、高純度で無色のダイヤモンドを製造するには、長い成長時間を必要とし、成長環境における温度と圧力をさらに制御する必要がありました。しかし、最近の技術の進歩により、ラボは10カラット以上のダイヤモンドにファセット加工することができる無色の結晶を生成することが可能となりました(15 Carat HPHT Synthetic Diamond(15カラットのHPHT合成ダイヤモンド)、ラボノート、Gems & Gemology(宝石と宝石学)、2018年夏号、Vol.54、No.2)。
成長過程でホウ素を追加することで、青い結晶が生成されます。ピンクや赤などの他の色は、放射線や加熱を伴う成長後の処理プロセスで生成できますが、あまり一般的ではありません。
化学蒸着(CVD)ダイヤモンドとは?
CVDはChemical Vapor Deposition(化学気相蒸着)の略であり、ラボでダイヤモンドを製造するのに使用されているもう一つの方法です。ダイヤモンドは、真空チャンバー内で適度な圧力と温度の下で炭化水素ガスの混合物から成長します。
CVDダイヤモンドの成長プロセス
ダイヤモンド種結晶を、ダイヤモンドの生成チャンバーに配置します。
チャンバーは、炭素含有ガスで満たされます。
チャンバーは約900〜1200°Cに加熱されます。
マイクロ波ビームがプラズマ クラウドから炭素を析出させ、種結晶上に堆積させます。
ダイヤモンドは数日ごとに取り出され、上面を研磨してダイヤモンドではない炭素を取り除いた後に、再び生成チャンバーに戻され成長を続けます。全プロセス一回分ごとのダイヤモンドは、一旦停止して再び開始するサイクルを数回必要とする場合があり、成長プロセス全体は、3〜4週間かかることがあります。
合成ダイヤモンド結晶を取り出したら、カッティングを行い、研磨して完成品に仕上げることができます。
さらに詳しく説明すると、CVDダイヤモンドの成長は、水素および炭素含有ガス(メタンなど)で満たされた真空チャンバー内で行われます。マイクロ波ビームなどのエネルギー源がガス分子を分解し、炭素原子はより低温で平坦なダイヤモンド種結晶のプレートに向かって拡散します。この結晶化プロセスは数週間にわたり続き、複数の結晶が同時に成長します。成長する結晶の正確な数は、チャンバーの大きさと種結晶プレートの数により異なります。多くの場合、平板状の結晶は、端が黒いグラファイトで荒くなっており、これはカットして取り除く必要があります。また、茶色くなることもありますが、これはファセット加工する前に加熱処理によって除去することができます。市場に出回っているほとんどの無色のCVDダイヤモンドは、もとは茶色の結晶で、HPHTアニーリングによって脱色されたものと考えられています。
HPHTダイヤモンドの成長プロセスと同様に、CVD法は改良を重ねており、製造業者はより良い色およびクラリティを呈するさらに大きいサイズのダイヤモンドを提供することが可能となっています。 (Observations on CVD-Grown Synthetic Diamonds: A Review(CVD成長法による合成ダイヤモンドの観察:レビュー)、Gems & Gemology(宝石と宝石学)、2016年秋号、Vol.52, No.3)
HPHT法またはCVD法によるダイヤモンドを識別する方法
合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンドと同じ化学組成を備えていますが、成長条件によって生じる識別を可能にする特徴があり、GIAの科学者は天然ダイヤモンドと区別するためにこれを使用します。これらの特徴により、GにIAの科学者は、ダイヤモンドを成長させるために使用された方法までも特定することが可能です。
HPHT合成石 | CVD合成石 |
不均一な色分布 | 均一な色分布 |
グレイニング パターン | グレインイング パターンなし |
異常な蛍光色 | 異常な蛍光色 |
蛍光色のパターン | 蛍光色のパターン |
リン光を発することあり | リン光を発することあり |
金属フラックス インクルージョン | 暗色ピンポイント インクルージョンを含むことあり |
歪みパターンなし | 縞状の歪みパターン |
ガードルに刻印がある可能性あり | ガードルに刻印がある可能性あり |
上の表は、合成ダイヤモンドの大多数の視覚的特徴を示しています。しかし、ファセット加工されたすべての合成ダイヤモンドがこれらの特徴をすべて示すわけではありません。例えば、特定の合成ダイヤモンドは蛍光を一切示さないことがあります。したがって、ダイヤモンドを鑑別する際には、識別を可能とする特徴をできるだけ多く検査することが重要となります。
カラー ゾーニングは、識別を可能とする特徴として非常に重要です。HPHT法による合成カラー ダイヤモンドは、窒素などの元素の成長時における結晶内での凝集の仕方によって、幾何学的なカラー ゾーニングを示すことがよくあります。天然ダイヤモンドがカラー ゾーニングを示すこともありますが、このカラー ゾーニングにはHPHT法による合成ダイヤモンドに見られるような幾何学的なパターンはありません。一方でCVD成長法による合成ダイヤモンドは、通常、色は均一です。
HPHT合成ダイヤモンドでは、透過光では黒く不透明に見えますが、反射光では金属光沢を持つ金属フラックスインクルージョンが見られることがよくあります。これは、HPHT成長過程で触媒として使用される金属が、時としてダイヤモンド結晶に入るため生じます。これらのフラックス金属合金は、鉄、ニッケル、コバルトなどの元素を含んでいます。したがって、より大きな金属インクルージョンを含む合成ダイヤモンドは、磁石に引き寄せられることがあります。
CVD成長法による合成ダイヤモンドには、金属インクルージョンが含まれていません。その代わりに、暗いグラファイト インクルージョンや特殊な成長プロセスの結果として生じる他の鉱物インクルージョンが含まれていることがよくあります。グラファイト インクルージョンは、金属光沢を持たないという観点から、金属インクルージョンとは異なって見えます。
互いに90度の角度で配向された2つの偏光フィルターの間で検査すると、天然ダイヤモンドが「歪み」による干渉色の明るいクロスハッチまたはモザイクのパターンを示すことがよくあります。これらの干渉色は、ダイヤモンドが地中の深部で、または地表に至る火山の噴火時に多大な応力にさらされたことから生じます。CVD成長法による合成ダイヤモンドは、縞状の「歪み」パターンを示す傾向があり、これは科学者がHPHT法による合成ダイヤモンドと区別するのに使用する特徴です。これとは対照的に、HPHT成長法による合成ダイヤモンドは応力にさらされないほぼ均一な圧力のある環境で成長するため、歪みパターンを全く示さないか、または弱い縞状の歪みパターンを示します。
合成ダイヤモンドの蛍光も、鑑別に役立つことがよくあります。多くの場合、合成ダイヤモンドの蛍光は長波紫外線よりも短波紫外線の下で強くなり、これは天然ダイヤモンドとは全く逆です。また、合成ダイヤモンドの蛍光は、特徴的なパターンをよく示します。
HPHT合成ダイヤモンドは、カットされた後、クラウンまたはパビリオンに十字形の蛍光パターンを示す傾向があります。CVD合成ダイヤモンドは、パビリオンファセットを通して見たとき、条線(縞模様)のパターンを示すことがあります。一般的な蛍光色には、グリーン、イエロー-グリーン、イエロー、オレンジ、レッドなどがあります。
合成ダイヤモンドには、紫外線ランプを消した後も1分間ほど発光し続けるものもあります。これは燐光と呼ばれ、通常は合成ダイヤモンドでのみ観察されます。
GIAは、ダイヤモンドを検査するために、DiamondView™と呼ばれる蛍光撮像機器を使用しています。この機器は、ダイヤモンド結晶内の成長パターンを明らかにします。
ダイヤモンド鑑別に関する真の課題は、メレーと呼ばれる極小のダイヤモンドを鑑別することです。メレーは、数百粒から数千粒の宝石をまとめたパーセルとして、ジュエリー市場で販売されています。パーセルには、天然ダイヤモンドとCVD法またはHPHT法の合成ダイヤモンドの両方が含まれている場合があります。
この課題に対応するために、GIAは、非常に小さなダイヤモンドを自動的に検査できるGIA iD100®を開発し、販売しています。また、GIAのラボラトリーではメレーのための検査サービスも提供しています。
合成ダイヤモンドについての継続的な研究の一環として、GIAはCVD成長設備も設置しており、研究のために独自の合成ダイヤモンドの製造を行っています。
合成ダイヤモンドの技術が高度化するに伴い、GIAの科学者たちは後れを取ること無く、非常に高度な検査技術および研究を進めています。購入するダイヤモンドの素性に確信を持つためには、GIA ダイヤモンド グレーディング レポートまたはGIA ラボラトリー グロウン ダイヤモンド レポートが付随するダイヤモンドを購入することをおすすめします。GIAのメレー検査サービスや、ダイヤモンドの検査機器GIAID100®およびGIA DiamondCheck™について詳しくご覧ください。
Dr. Shigleyは、カールズバッドにあるGIAの著名研究員です。