業界分析

1109カラットのダイヤモンドがなぜ売れなかったか?


Lesedi la Rona
1109カラットの Lesedi La Ronaダイヤモンドは、史上第二の大きさを誇る宝石品質のダイヤモンド。しかし、2016年6月29日に行なわれたサザビーズロンドンでのオークションでは、リザーブ価格に至らなかった。 提供:Lucara Diamond Corp.(ルカラ・ダイヤモンド社)

今月は、有名な公開オークションで史上第二の大きさを誇る宝石品質のダイヤモンドが売却されなかったことをうけ、多くの憶測が飛び交いました。 ルカラ・ダイヤモンド社は、昨年ボツワナで1109カラットのダイヤモンドを産出し、 Lesedi La Rona(レセディ・ラ・ロナ ー ツワナ語で「私たちの光」の意味)と名付けました。 6月29日にサザビーズロンドンで競売にかけられ、その落札価格は「7000万米ドル(約72億円)以上」となることが期待されていましたが、最高入札額は6100万米ドル(約63億円)で、7000万米ドルというリザーブ価格に至りませんでした。

このダイヤモンドは、公開オークションにかけられた史上初かつ唯一のダイヤモンド原石でした。 ルカラ社の最高経営責任者(CEO)である William Lamb 氏は、アントワープのニュースレター「Diamond Loupe(ダイヤモンド・ルーペ)」でなぜ稀有なケースとして、このダイヤモンドの競売に踏み切ったかを話しました。

「Lesedi は、25億から30億年前に形成されたダイヤモンドだと推定されています。つまりその結晶は、地球の形成期のとても早い段階に成長し始めたに違いありません。 合成製造法や他のどんな方法を使っても、同じ物を再現することはできません。 全く同じ物はできないのです。 作ったとしても、全く同じインクルージョンが含まれたり、小さな割れ目が入っていたり、このような成長面も見られないでしょうし、こんなに大きくもないでしょう。 人々には、特にこのように特別大きなサイズの石や、研磨された後に100カラット以上になる石が成長するのに、どれだけの時間がかかるかが、全く理解されていないのです。」

数週間前、ルカラ社は昨年後半に産出した813カラットのダイヤモンド原石を、同社顧客向けの非公開オークションで6300万米ドル(約65億円)で売却しました。しかし、サザビーズのオークションは時期が極めて悪かったのです。

サザビーズのオークションは、イギリスのEU離脱の是非についての国民投票により、国際通貨と株式市場が混乱に陥った6日後に開催されました。 オークションはこの投票後に急騰した米ドル建てで行われたため、他の通貨で支払うバイヤーは割増価格を払うことになりました。 (中国人民元でさえ、対米ドルで数パーセント下落しました)

さらに、サザビーズによるダイヤモンド映像および検査を行ったディーラーのコメントから、このダイヤモンドの内部に亀裂がある可能性があり、最終的なダイヤモンドの出来高が限られることが判明しました。前述の813カラットの石の方が、圧倒的にクリーンでした。

最後に、数多くの主要な原石ディーラーには、明らかにこのダイヤモンドに入札する意思がありませんでした。サザビーズの12%のバイヤーズ・プレミアムにより、推定リザーブ価格7000万米ドルでの落札額にさらに840万米ドル(約8億4千万円)が追加されるからです。

この点から、オークション会場では買いを控える雰囲気がはっきり感じられました。 競売人の David Bennett が5000万米ドル(約)万(約51億円)から入札を開始しましたが、その額を次々と上回る入札の声はありませんでした。 価格はとてもゆっくりと上昇し、6100万米ドルで入札が止まりました。

このダイヤモンド以外には、非常に大きなカラーレスダイヤモンドと最上級のファンシーカラーの価格が引き続きとても堅調であることが、このオークション期の結果として立証される形となりました

この失敗に終わったオークション後、The Economist(エコノミスト)誌やForbes(フォーブス)、その他のいくつかの新聞では、ダイヤモンドビジネスが消極的なミレニアル世代そして合成石との競争により困難に直面しているとして、Lesedi La Rona が引き合いに出されました。

The Economist は Frost & Sullivan(フロスト&サリバン)の研究を引用し、ダイヤモンド価格の低下およびコスト増加により、今後30年間でダイヤモンド生産量が1500万カラット以下に減少する(今年の生産量は1億3000万カラット)一方で、合成ダイヤモンドの生産量は同じ時期に6000万カラットへと上昇すると論じています。

Forbes は、モルガン・スタンレーのコモディティレポートから、合成石は今後ダイヤモンド市場にますます混乱を生じさせるだろうと伝えています。特に0.2カラット以下の小さなダイヤモンドにおいては、合成石を製造しやすいため、その傾向が強くなるとも論じられています。

同レポートでは、天然ダイヤモンドの鉱山生産は再び増加傾向にある(2016年には1億4300万カラットへと9%の増加予想)ものの、その販売はほぼ停滞したまま止まり、原石および研磨済みのダイヤモンドの在庫が再び膨れ上がるとも指摘されています。

貸金業界をリードする ABN アムロ銀行は、ダイヤモンドの在庫が増加していることを受け価格が再び落下する恐れがあると警告しています。 同銀行は、これまでの原石市場は消費者需要が上昇するにつれダイヤモンド価格が高まると考えるディーラーらの影響で持ち直していた、と伝えています。 しかし、小売において期待通りの売上増加が見られなかったことから、それらのディーラーらの動きが持続できないレベルの在庫増加につながり、結果としてその脆弱な持ち直しが危うくなっているとも伝えています。

デビアスは予想どおり今年の上半期の積極的な販売姿勢を崩し、6月20日から24日までのサイト(現在はサイクルと呼ばれる)で540万米ドル(約550億円)を売却しました。 テーブルに残された品がほとんどなかったという事実は、デビアスと他の主要なダイヤモンド生産企業(アルロサ、リオ・ティント)が、価格、需要、供給の現実的な釣り合いをとったものと解釈されました。 7月25日から29日のサイクルは、おそらく保守的な競売となることが予想されます。

Russell Shor は GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。