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バナジウムおよびクロムを含有する「変色」パイロープ・ガーネット

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白熱灯と昼光と同等の光の下で見たピンクパイロープ・ガーネット
おそらくタンザニア・モロゴロで採掘されたと思われるピンク色のパイロープ ガーネットの興味深いものを、白熱光A(左)と昼光と同等の光D65(右)の下で見た様子。 色の顕著な違いが見られる。 左から右:Todd Wacksによりカットされた2.51ctの変形ラウンドブリリアントカット、Meg Berryによりカットされた7.61 ctの変形ラウンドブリリアントカット、Todd Wacksによりカットされた13.09 ctの変形ラウンドブリリアントカット、31.90 ctと6.00 ctの原石。 2.51 ctと13.09 ctのファセットカットを施した石は、本研究の一部として使用されたもの。 写真:Robert Weldon/GIA。

GIAの若手のリサーチサイエンティスト3名、Ziyin “Nick” Sun、Aaron Palke、Nathan Renfroが行った査読審査の記事は2015 Tucson Gem Show(2015年ツーソンジェムショー)でカラージェム市場に再度、参入した魅力的なタンザニア産変色ガーネットを特集した興味深いものです。 記事はここからPDF版をダウンロードできます。また、Gems & Gemology(宝石と宝石学)の印刷でご覧いただけるほか、Winter 2015版をオンラインでもご覧いただけます。

宝石商兼カッターでもあるTodd Wacks氏、Jason Doubrava氏、Jeff Hapeman氏、Meg Berry氏はこの研究にサンプルを提供しました。 Wacks氏によると、これらのガーネットは1988年あたりにタンザニアMorogoro(モロゴロ)で採掘され、30年近く安全な貸金庫に保管されていました。 このグループは2015 Tucson Gem Show(2015年ツーソンジェムショー)の3〜4ヶ月前に原石を入手することができました。 原石をカットした後、この宝石はパープルからピンク色の著しい色の変化を示しました。 これまで見たガーネットとは違うことに気づき、Wacks氏はその市場を構築することにしました。 蛍光灯のような光の下では大きな宝石は上質の紫色のアメシストのように見え、白熱灯の下では強いピンク色のトルマリンに似ています。

Wacks氏が分析のためにGIAのカールスバッドラボに石を提出すると、筆者らの注目を集めることとなりました。 残りのグループは引き続き、より詳細な検査のために代表的な一連のサンプルを準備しました。 最大31.90 ctのものを含む原石と研磨石のサンプル32個の研究では、この魅力的な素材のインクルージョンについての包括的な調査のほか、異なる照明条件下で色の定量分析が行われます。 標準検査ではパイロープ ガーネットと一致した特性を示し、また白熱灯と昼光に相当する光との間では顕著な色の違いを示しました。 主要な発見は、ファセットカットされた13.88ctと13.90ctの宝石を含むより大きな石ほど、最も際立った「変色」を示すということです。

原石は最良の顕微鏡写真を得るためにインクルージョンを正しい方向に置くようにしてウェハーに加工されました。 宝石にはクォーツ、アパタイト、硫化物、ルチルなど多様な鉱物結晶が含まれていることが分かりました。 ラマンスペクトルを測定して、これらの鉱物インクルージョンを最終的に同定しました。 成長チューブ、フィンガープリント状インクルージョン、ネガティブ結晶も観察されました。

研究員たちは11個のサンプルにレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)を使い、その化学組成を判定しました。 LA-ICP-MS分析によると、これらのガーネットはパイロープ(68.92–72.90 mol.%)、グロッシュラー(4.88–5.61 mol.%)、スペサルティン(9.55–15.08 mol.%)、アルマンディン(5.66–10.14 mol.%)が大部分で、その他のガーネット種が少量であることが確認されました。 より一般的な宝石品質のパイロープと比較すると、この素材はバナジウムとクロムの濃度がより高いことが分かりました。

3つのサンプルは様々な厚さのウェハーにカットし、UV-Vis-NIR分光分析を行いました。 このようにしたのは、光が素材をより長く通過することとなる大きな石で最も顕著な変色が見られるという見解を調査するためです。 より大きな宝石のスペクトルは、厚さが既知のウェハーから収集されたスペクトルを乗じて推定されました。 これによって筆者らは、最も強く「変色」効果を示すための、異なる照明条件下で示される色の最大の分離を生じるために、この素材のラウンドブリリアンカットの最適なサイズを計算することができました。 研究員の比色分析は、物理学者でありG&Gの長年の寄稿者であるDr. John Emmett氏の研究が基になっています。

「このプロジェクトは、素晴らしい宝石について調査できただけでなく、自分たちのスキルに磨きをかけ、高度な検査技法を色知覚についての深い研究に応用するチャンスが与えられたもので、素晴らしいことでした。」とSun氏は言います。「一つ例を挙げると、薄いガーネットウェハーの色を、特定のサイズと形のファセットカット石に当てはめるために、反射光損失を考慮してUV-Visスぺクトルを正確に修正する技術を開発しなければなりませんでした。  この素材の色の変化を理解するには、科学的性質を正確に測定する必要がありました。 そこで、ガーネットのような複雑な固溶体にある発色団の濃度を判断するために、LA-ICP-MSを使って自分たち独自の方法を開発しなければなりませんでした。」