天然ダイヤモンドにオーバーグロースした合成ダイヤモンド
, , , と5月 1, 2017

窒素は天然ダイヤモンドの中で最も一般的な欠陥であり、単一置換または凝集した状態で観察される。一方で、ホウ素は天然ダイヤモンドではあまり見られない不純物である。一つのダイヤモンド中に窒素とホウ素の両方の欠陥が観察されることは非常に珍しい。最近、GIAニューヨークラボではこの珍しい特徴を持った0.33ctのファンシーブルーとグレードされたダイヤモンドに遭遇した (図 1)。
赤外吸収スペクトルから、Ia型とIIb型ダイヤモンドが混合した非常に珍しい特徴を持つことが明らかになった(図2)。このスペクトルは1367 cm–1 にプレートレットのピーク、3107 cm–1 に水素の吸収ピークを示した。天然ではIa型とIIb型ダイヤモンドの混合型は非常に珍しく、その一例がGems & Gemology (Spring 2009 Lab Notes, pp. 55–57)に報告されている。しかし、その報告とは異なり、今回のダイヤモンド中の窒素はかなり凝集した状態であった。DiamondViewで得られた画像は、フェイスアップでは黄緑色の蛍光を示し、フェイスダウンでは青色の蛍光を示した(図2)。 さらに詳細を調べると、クラウンファセット内に明確な境界をもった黄緑色の蛍光を示す部分が観察された(図3)。テーブル及びクラウンファセット上の境界で測定したフォトルミネッセンススペクトルは、736.3と736.9nmにSiV-欠陥による発光を示した。

SiV-欠陥は天然ダイヤモンドにもみられる。しかしながら、SiV-欠陥、明瞭な境界、黄緑の蛍光と燐光、これらの組み合わせは、最上部の層がCVD合成ダイヤモンドであることを示唆している。下部のダイヤモンドはDiamondViewで青の蛍光を示すが燐光はなく、この特徴は天然のIa型ダイヤモンドと一致する。明確な境界線が、クラウンファセット上の界面に沿って観察された(図3)。光ファイバ光源を使用し、パビリオンから反射光を観察すると明瞭な界面が確認できた。界面層ではクラウド状の包有物が、界面またはその近くでは暗色の針状包有物が観察された(図3)。下部のダイヤモンドには、小さなストレスハローと天然の表面が見られた。パビリオン全体の歪み模様はIa型天然ダイヤモンドと一致している。
CVD合成ダイヤモンドの品質は合成時の種結晶または基板の結晶方位と温度に依存する。CVD合成ダイヤモンド膜の形成は、1960年代初期から天然ダイヤモンド基板上で行われてきた(W.G. Eversole, 米国特許第3030187号、 3030188号、1962年)。メタンや他の炭素含有ガスが使用されたが、グラファイトがCVD合成層とともに析出していた。1993年に、天然IIa型及びIa型ダイヤモンドの基板上にCVD合成層を成長させることに成功した(B.G. Yacobi et al., “Preferential incorporation of defects in monocrystalline diamond films,” Diamond and Related Materials, Vol. 2, No. 2-4, 1993, pp. 92–99)。彼らはマイクロ波プラズマCVD装置で、80 torrのCH4とH2の混合ガスを用いた。CH4とH2の反応は、sp3結合表面を維持し、グラファイト化を阻害する水素原子を生成した。単一置換窒素原子(Ns0)が存在しないことから、今回検査された試料のCVD層が成長する間、天然ダイヤモンド基板に加えられた温度は比較的低かったと考えられる。このことは、Yacobi(1993)が使用したCVD成長の温度―Ia型 {100}ダイヤモンド基板に880℃、Ia型 {111}ダイヤモンド基板に1200℃―と一致している。
天然ダイヤモンドの成長模様から、IIb型 CVDダイヤモンドは{100}方向またはそれに非常に近い方向に生成されていることが明らかである。天然ダイヤモンド基板は、非常に小さなストレスハロー以外に包有物は確認されなかった。CVDによるオーバーグロース層の厚さは約80ミクロンであった(図3)。FTIR分光法はバルク分析であり、上部のCVD層と分厚いダイヤモンドの基板を分けてIRスペクトルを測定することは難しい。しかし、蛍光と燐光は、上部の合成層がホウ素(例えば、ホウ素がドープされたCVD合成ダイヤモンド)を含み、下部のダイヤモンドが窒素の凝集体を含むことを示唆している。この石の上部にあるIIb型のCVD合成ダイヤモンド層は、テーブルから見た際のファンシーブルーの色味を効果的に作り出している。
今回のようなファンシーカラーグレードで天然ダイヤモンド上に合成ダイヤモンドを成長させたものが確認されたのは、GIAでは初めてである。カラーダイヤモンドの鑑別は、界面に沿った直線状の境界線やDiamondView画像での明瞭なエッジの蛍光領域といった特殊な特徴を探すなど、非常に注意深く行う必要がある。無色やほぼ無色のダイヤモンドにも同様の課題が存在する可能性が考えられる。
Kyaw Soe Moe、Paul Johnson、Ulrika D’Haenens-Johanssonは、GIAのニューヨークラボの研究者です。 Wuyi Wangは、GIAの研究開発ディレクターです。