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写真に秘められた逸話:巨大なアクアマリンと「華麗な」自然


地図の上に置かれたノート、ペン、コンパス アプリがアップロードされた携帯電話、デジタル カメラ。
フィールド ジェモロジィの写真家は、地図、ノート、ペン、コンパス アプリをアップロードした携帯電話、デジタル カメラなどを持って世界中を旅する。写真撮影:Robert Weldon

Robert Weldonは、宝石学フォトジャーナリストとして最も魅力的で美しい宝石を求めながら世界を旅してきました。彼は鉱山に登り、次の場所にたどり着くまで何キロも歩き続け、完璧に輝く宝石に出会うため辛抱強く待ち続けます。宝石が発見される場所や文化に心を奪われるのと同じように、宝石を採鉱したり、取引する人々に魅了されます。

Weldonは、ビルマ、インド、東アフリカ、南アフリカ、コロンビア、ボリビア、ブラジル、ロシアなど、世界の主要な宝石原産地をいくつか訪れてきました。彼が撮影した写真は、彼自身および他の著者の記事を読者に深く理解してもらうために、国際的に著名な多数の宝石学・ジュエリー関連および消費者向けの出版物や書籍で取り上げられています。また、彼の写真は、2008年以来、Gems & Gemology(宝石と宝石学)の表紙としてよく使用されています。

Weldonが撮影するそれぞれの写真には、人々に伝える逸話があります。その画像はどのように着想したか、その宝石をどのようにしたら最も素晴らしく見せられるか、宝石が発見された地域の状況をどのように紹介しようと決断したかなど、様々な逸話が潜んでいるのです。過去30年間、彼は、世界で最も重要な宝石やジュエリーをいくつか撮影してきました。

Weldonは、私たちが目にするものをさらに高く評価できるように芸術と宝石学を組み合わせます。

「私たち全員によって作りあげられ愛されているこの業界は、視覚的な部分が非常に大きいものです。すべてが私たちの感覚に完全に依存しており、特に私たちの目と私たちが見て感じるものではなおさらです」とWeldonは語ります。「高品質の画像に基づいて意思決定が直ちに行われ、世界中で数百万ドルが取引されるということがよくあるのです。」

Weldonのお気に入りの宝石の逸話をいくつかこちらに紹介します。

これは絶対にしないように

教会を背景にして前方の岩石の上に置かれたドン ペドロ。
Munsteinerが手掛けた由緒あるアクアマリンの彫刻作品、Dom Pedro(ドン ペドロ)。Jane MitchellとJeffery BlandによってSmithsonian Institution(スミソニアン協会)に寄贈され、National Museum of Natural History(国立自然史博物館)のJanet Annenberg Hooker地質学館に収蔵されている。写真撮影:Robert Weldon

Weldonは、20年以上前にツーソンの見本市で、宝石彫刻の巨匠であるBerndt Munsteinerが彫刻した高さ14インチ(約36cm)のオベリスクである10,363カラット(ct)のDom Pedro(ドム ペドロ)アクアマリンを撮影する機会を与えられました。

このアクアマリンはWeldonの小さなポータブル スタジオに収まらなかったため、彼と宝石ディーラーのEvan Caplanは、砂漠にこの作品を持っていくことにしました。象徴的なMission San Xavier del Bac(サン・ザビエル伝道教会)を背景にして岩石の上にこのアクアマリンを慎重に置きました。1783年から1797年の間に建設された古代の教会が、この近代的で角張った宝石彫刻とコントラストを生み出し、ドラマチックな画を作り出しました。

「彫刻はそよ風が吹いて僅かに揺れるので、倒れないようにすぐさま飛び込んでおさえられる準備をしながら、Evanは身をかがめて少しずつ離れていきました」とWeldonは当時の様子を振り返りながら語ります。撮影が無事に終了し、Caplanのブースへ慎重に彫刻をすぐ戻しました。

数ヶ月後、Munsteinerが歩み寄って来るのを見たWeldonは、伝説の彫刻家が近づくにつれて「立ちすくみ、決まり悪く感じ、おびえて」いました。

するとMunsteinerは、微笑みながら 「Robert、あれは素晴らしい写真だ」と言いました。そして、間をおいて、「ところで、この石はどれくらいの価値があるか知っている?」と尋ねたのです。

幸いなことに、写真撮影は成功を収め、JCKマガジンに掲載されました。Munsteinerは、彼のリビング ルームにこの写真のコピーを飾ると述べています。

「これは決してやってはいけないことです!あまりにも危険であり、リスクが大きすぎます。もう決してあのようなことはしません」 とWeldonは語ります。

2012年よりこの作品を展示しているSmithsonian Institute(スミソニアン協会)によると、Dom Pedro(ドム ペドロ)は「カット済みのアクアマリンの宝石では最大の作品」とされています。スミソニアン協会が「Hope Diamond(ホープ ダイヤモンド)からわずか30フィート(約9m)の場所にそれだけで展示ケースに飾ることができる世界で数少ない作品の一つである」と言うほど、これは非常に美しい作品です。

見事な鍾乳石

「Atlantis(アトランティス)」と名付けられたこの鍾乳石は、コンゴ民主共和国南部にある銅山で有名な「カッパー クレセント(銅の三日月)」と呼ばれている地域から産出された。鍾乳石が壊れないように逆さまに展示されている。写真撮影:Robert Weldon
「Atlantis(アトランティス)」と名付けられたこの鍾乳石は、コンゴ民主共和国南部にある銅山で有名な「カッパー クレセント(銅の三日月)」と呼ばれている地域から産出された。鍾乳石が壊れないように逆さまに展示されている。写真撮影:Robert Weldon

コンゴの洞窟で発見されたこのマラカイトとクリソコーラの標本は、重量は80〜90ポンド(約36~41kg)、長さが1.5メートルあります。

「興味深いことに、これは逆さまに展示されていますが、自然界で形成されたのと同じ状態で撮影(または展示)したくなかったのです。そのように配置すると、美しい鍾乳石が壊れてしまうからです」とWeldonは説明します。

GIA 博物館は、2020年のツーソン ショーでこの「見事に素晴らしい」マラカイトとクリソコーラの標本を入手しました。エキゾチックな海中の世界を思わせる姿から、「アトランティス」という愛称で親しまれています。ビデオによるプレゼンテーションでは、その形成に関して説明していますので、是非ご覧ください。

よく見ると、それぞれの鍾乳石の中央に小さな穴があるのにお気づきになるでしょう。ストローのようなこれらの管に溶液が滴り落ちたため、鍾乳石が下に向かって成長しました。管に開口部がなかったら、その溶液が鍾乳石の外側に流れ、鍾乳石は厚くなったでしょう。

通常、鍾乳石は重力の影響を受けて生成し、まっすぐに成長します。これらの標本のいくつかの鍾乳石は、奇妙に湾曲して丸みを帯びており、空気または水流などの外部の影響のため片側が著しく成長したことを示しています。

「これを見るだけで、宝石の形成について理解し始めることが本当にできます。鉱物が豊富に含まれている水滴がしたたりおちて、カラフルな鍾乳石を生み出した様子がわかります。これが、現在私たちが目にするものなのです。自然のみがこれほど華麗なものを生み出すことができる、ということを見事に表現しています。なんて素晴らしい作品なのでしょう。全く見事です」とWeldonは語ります。

GIAナレッジ セッションをご覧ください。RTL宝石学図書館ディレクターのRobert Weldon、研究部門のシニア マネージャーを務めているAaron Palke博士、フィールド ジェモロジィ主任のWim Vertriestが、これまで未公開とされていた写真を通じてGIAフィールド ジェモロジィの遠征調査を独占公開します。

シニア コミュニケーション マネージャーのAmanda J. Lukeは、GIAで編集者兼ライターとして19年間活躍しています。