2019年春のオークション: 歴史的な作品のプレミア価格
6月 14, 2019

主要なオークションハウスは稀少な宝石の出展に関するニュースを依然として発表していますが、最近売却された作品に関するニュースは記録的な価格よりもその歴史に焦点を当てています。
今年のオークションでは、ロットおよび非常に大きなダイヤモンドが減少し、数年前に見られた記録的な水準から価格が幾分下落しました。しかし、オークションハウスの幹部は、高品質の宝石や宝飾品の市場は、由緒ある歴史を持つ作品に対しては依然として堅調であると指摘しています。
4月にニューヨークで行われた当社のオークションは、今の市場を象徴しています、とChristie’s(クリスティーズ)の宝飾品国際部門長のRahul Kadakiaは述べました。4月16日のオークションでは、近年のオークションと同様に、5カラット以上の最高品質のファンシーカラーダイヤモンドまたは25カラット以上のカラーグレードDでフローレスのダイヤモンドは出展されませんでした。さらに、ロットのほとんどがディーラーではなく、エステートジュエリーから出展されていました。
このオークションでは、15カラットを若干上回るいくつかのダイヤモンドがカラット単価10万ドル(約1100万円)以上で売却されましたが、これは過去10年間の半ばで最高値であった15万~18万ドル(約1600~1900万円)から下落したとKadakiaは認識しました。
あれは市場で急騰した価格でした。しかし、長期的に見るとこのような宝石の価格は長年にわたって大幅に上昇しています、と彼は説明します。
5月14日にジュネーブで行われたSotheby’s(サザビーズ)のオークションでは、1粒の大きな(36.57カラット)カラーグレードD、フローレスのダイヤモンドが約500万ドル(約5.4億円)すなわちカラット単価136,000ドル(約1500万円)で売却されましたが、最も入札が殺到したのはBeaumont Necklace(ボーモント・ネックレス)のような署名付きの年代物の宝石でした。このネックレスは、エメラルドとダイヤモンドでできたアールデコ調の作品であり、1935年頃に収集家のHélène BeaumontのためにVan Cleef & Arpels(ヴァン クリーフ&アーペル)が制作したと伝えられています。この作品は推定落札価格の約20%を上回って落札されました。
市場の需要に合わせたオークションの作品
主要な宝石に対する市場の需要が弱まると、オークションハウスは出展する作品に関してより慎重になったり、エステートジュエリーに注力する必要があります。例えば、小さめの高品質の宝石、より伝統的な「署名付き」の年代物の宝石を出展します。通常、価格はディーラーからの価格よりも手頃であると、Kadakiaは説明します。
オークションで売却するディーラーは、落札額の12%~15%のオークション売手割増料金を払うのに見合う高い価格で売却する必要があると述べました。(オークションでは買手も同様の料金を払う必要があります。したがって、宝石が10万ドルで落札された場合、買手はおそらく約115,000ドル支払うことになり、売手は約85,000ドルを受け取ります。)
サザビーズとクリスティーズは、主要な宝飾品の販売数を過去2年間で25%~35%削減しています。これは、これらのオークションハウスが売却するものをほとんど所有していなくても、「バイイン」 (入札者を見つけることができないロット) を避けるために全力を尽くしているためです。
バイインが起きると、オークションの広報が及ぼす影響力は不利に作用します。作品が落札されなければ、誰もがすぐにそれを知って、市場について心配し始めますから、とファンシーカラーダイヤモンドのディーラーの一人は説明しました。

Kadakiaは、主要なカラーストーンの価格は減速した需要の影響を受けにくく、通常、最も売却されるロットはファンシーカラーダイヤモンドである、と述べました。5月15日にジュネーブで行われたクリスティーズのオークションで最高価格で落札されたロットは22.86カラットのクッションシェイプのビルマ産ルビーであり、オークション前の推定落札価格の2倍を上回る720万ドル(約7.8億円)の価格が付きました。また、天然真珠のソートワール (ペンダントやタッセルを吊り下げることができる長いネックレス) はディーラーより580万ドル(約6.3億円)で落札されました。
5月15日に開催されたこのオークションでは、2つの重要なダイヤモンドが出展されました。
- GIAがグレーディングを行った118カラットのファンシーイエローダイヤモンド。ニューヨークに拠点を置く主要宝石のディーラーであるSiba Corp.(シバ社)が、販売直前に亡くなった創業者Sam Abramに敬意を表して推定落札価格の2倍である710万ドル(約7.7億円)で購入
- Jonker V(ヨンカー V)と呼ばれるGIAがグレーディングを行った25.27カラットのカラーグレードD、VS1 ダイヤモンド。南アフリカで発見された有名な726カラットの Jonker Diamond(ヨンカー・ダイヤモンド)から1934年にカットされ、300万ドル(約3.2億円)の推定落札価格を達成
ユニークな作品および価格
一般的に価格が若干低下しつつあっても、本当にユニークな作品は常に高値で売却されます。それは、そのような作品に再び出会うチャンスがほぼないと買手が思うためです。
最も良い例は、Wittelsbach(ヴィッテルスバッハ)ブルーダイヤモンドでしょう。金融市場が暴落した2009年に2,340万ドル(約25.3億円)で落札し、記録を達成しました、とKadakiaは説明しました。

クリスティーズの5月15日のオークションの中で最も話題となった作品は、もともと女帝エカチェリーナ2世が所有していたロシアの大公女ウラジミールのインペリアルエメラルドという非常にユニークなものでした。
このエメラルドの豊かな歴史は、18世紀末にかけてエカチェリーナ2世が107.67カラットのスクエアカットのエメラルドとして受け取ったときに始まりました。エカチェリーナ2世が亡くなった後、このエメラルドはCartier(カルティエ)が1927年に購入するまでロシアの王族の手に渡っていました。カルティエは、亀裂やインクルージョンのほとんどを取り除くために75.63カラットのペアシェイプに再カットし、1954年にJohn D. Rockefeller Jr. へ売却しました。
その歴史のため、この宝石を評価することは困難であった、とKadakiaは語ります。
いつものように業界の方々と会い、その歴史を価格に追加せずに掲載するよう頼まれました、とKadakiaは続けました。
クリスティーズの専門家は、カタログに販売前の推定価格を230万ドル~350万ドル(約2.5億円~3.8億円)として掲載しました。
その価格で落札されれば、エメラルドそのものの価値を達成したと言えます。それ以上高く売却できたら、その歴史のために価格が上がったということになります、とKakadiaは指摘しました。
ある匿名の個人バイヤーが、その歴史のために約100万ドル(約1億円)を追加した430万ドル(約4.6億円)で落札し、この入札は終了しました。

2年前、クリスティーズは、1661年にマザラン枢機卿がフランス王ルイ14世に贈呈した19カラットのファンシーライトピンクダイヤモンド、「Le Grand Mazarin(ル グラン マザラン)」の販売前推定価格400万ドル(約4.3億円)に100万ドル(約1億円)を追加しました。このダイヤモンドには、ルイ14世からフランスの数々の君主の手に渡り、その後はナポレオン·ボナパルト皇帝が所有していたという歴史があります。
これはいまだに民間の手に残っている中で最も名誉ある、歴史的な由来を持つダイヤモンドである、と当時Kadakiaは語りました。2017年11月のオークションで出展されたこのダイヤモンドは、フランスの王冠の宝石のオークションで1887年に売却されており、このオークションで再び出展されるまで民間のコレクションを通じて売却されました。
結局、この宝石は、その歴史のために1100万ドル(約11.9億円)のプレミアが付いて、1500万ドル(約16.2億円)近くで売却されたのです、と彼は述べました。
Russell Shorは、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。