オーストラリアのサファイアの遺産を求めて
, , と12月 14, 2015

その石を太陽にかざし、サファイア全体に渡る深く鮮やかな、気品のある青色を見た瞬間……夢中になってしまったんだ。

はじめに
サファイアがオーストラリアで発見されたのは、1850年代のゴールドラッシュと1870年代のスズ採鉱の際のことでした。 最も初期の文献の1つとして、1851年にニュー・サウス・ウェールズ州でのサファイアの発見があります。 サファイア採鉱の長い歴史と少なくとも半世紀にも渡る商業生産のスパンにも関わらず、オーストラリアのサファイアは、国際的な宝石・ジュエリー産業と消費者市場のどちらからも然るべき評価を受けることはありませんでした。 最高品質のオーストラリア産宝石は、例えばカンボジアの「ペイリン」など、他の産出地からのものとして販売されていました。 オーストラリアにおける商業用品質を持つ大きなサファイア生産とその世界市場(特に現在タイにあるコランダム取引センター)への貢献は、過小評価されています。 オーストラリアとタイの間で行われる取引は、現在のサファイア産業の動力を作り出しました。
GIAの地球規模でのコランダム研究を進め、オーストラリアのサファイア業界の全貌を知るために、GIAはフィールドジェモロジストのグループをオーストラリア東部に位置する最も重要なサファイアの産地の探索へ派遣しました。 このグループはGIAシニア・フィールドジェモロジィ・マネージャーであるVincent Pardieuをリーダーとし、フィールドジェモロジストのAndrew Lucas、Gems & Gemology(宝石と宝石学)技術編集者のTao Hsu、アシスタント・フィールドジェモロジストのVictoria Raynaud、そしてフィールドカメラマンのDidier GruelとDidier Barriere Doleacで編成されました。 Vincent Pardieuをリーダーとする別のチームが、今年すでにタスマニアのサファイア産地を訪問しており(http://www.gia.edu/gia-news-research/searching-sapphire-tasmanian-wilderness)、GIAのフィールドジェモロジストはオーストラリアに存在する全ての重要なサファイア産地を網羅したことになります。
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オーストラリアのサファイア宝石産地
これまでにサファイア鉱床があると報告されてきたオーストラリアの東海岸に位置する地域には、主要なサファイア採鉱地区として広く知られる地域が3箇所あります。 南から北の順に、ニュー・サウス・ウェールズ州のニュー・イングランド台地に位置するインヴェレル-グレン・インズ地域、クイーンズランド州のルビーヴェール-アナキー区、そしてクイーンズランド州北部のラーヴァ・プレインズです。 オーストラリアのサファイア鉱床は全てアルカリ玄武岩に関連しています。 石は以前あるいは現在の水流沿いの二次鉱床と、一次/再生火砕流あるいは火山泥流(ラハール)の両方から採掘されます。 GIAチームはシドニーを発ち、インヴェレル、ルビーヴェール、そしてラーヴァ・プレインズを訪れ、 3つの全地域でサファイアのサンプルを採集しました。
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新生代玄武岩に密接に関連している。 南から北の順に、インヴェレル地域、アナキー地域、そして
ラーヴァ・プレインズ地域の3箇所である。
インヴェレル-グレン・インズ地域はサファイアの世界的な主要供給地の1つです。 サファイア鉱床は火山砕屑岩とその再生漂砂砂鉱の両方で発見されますが、溶岩流の中には存在しません。 風化作用と植皮により、玄武岩質溶岩流は稜線や段になった複数の層として見えることはありません。 本来の火山体は視認できません。 北部ニュー・サウス・ウェールズで初めてサファイアの存在が記録されたのは1854年ですが、商業採鉱は1919年まで行われませんでした。 1960~1970年代、価格高騰に繋がるタイのバイヤーからの高需要と新しい採鉱技術の導入により、この地域におけるサファイアの機械化採鉱は全盛期を迎えました。

キングス・プレインズ鉱床にて、GIAチームはインヴェレルの町の北東約45キロに位置するWilson Gems & Investment(ウィルソン・ジェムス&インベストメント)が運営する鉱山を訪れました。 他の鉱山労働者と共に、Wilson一家は60年代にこの鉱床の初採鉱を始めました。 キングス・プレインズ鉱床は、これまでに採鉱された鉱床としては世界で最も豊富なサファイア鉱床の1つとして知られています。 オーナーであるJack Wilson氏によると、複数の火山噴火の結果発生した可能性がある、2つ以上のサファイア含有層が存在するはずだということです。 GIAチームは訪問中、鉱山労働者による表土下の粘土質のサファイア含有層の採掘を視察しました。 採掘後に洗浄された素材は最終的に手作業で分別され、サファイア結晶の原石が更なる選別作業に送られます。 ほとんどの生産物はタイ国内でカットされ、ロシアに輸出さます。
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インヴェレルの訪問中には、Billabong Blue(ビラボン・ブルー)サファイア鉱山を視察する機会がありました。 この鉱山はキングス・プレインズの露天掘り操業とは対照的な、古い流水溝沿いの漂砂鉱床です。 現在露出している断面におけるサファイア含有砂礫層は非常に浅いところにあります。 チームの滞在中には採鉱は行われていなかったものの、最終生産日のジグに残っていた洗浄済み砂礫の中からいくつかの石を見つけることができました。
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州境を超えてクイーンズランド州に足を踏み入れたGIAチームは、2箇所めのサファイア産地、州中央部に位置するルビーヴェール-アナキー地域を訪れました。 政府測量技師Archibald John Richardson氏が、1875年の鉄道調査中、この地域最初のサファイアを発見しました。 氏はその後すぐ仕事を辞めてアナキーに移住し、採掘権の申し立てを起こした後サファイアの採掘を始めました。 この地域に見られる保存状態の良い玄武岩質岩栓のため、他のサファイア産地と同じように、サファイアを地表に運んだのは玄武岩質火山活動だと広く考えられていました。
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自分たちの故郷のサファイア文化をとても誇りに思っている。 写真:Andrew Lucas / GIA
この地域でのサファイアの採鉱は、主に現在および過去の河道で行われており、初生鉱床での採鉱はまだ行われていないと言われています。 花崗岩質基盤岩上のサファイア含有堆積物は厚さが様々で、非常に高いエネルギーの局地的堆積物環境を反映しています。
1970年代初期に機械化導入と共に始まったサファイア採鉱ブームは、1970年代後期にはその勢いを失いました。 それ以降は、観光産業やフォシッキング(趣味での採鉱)が大きく成長しました。 今日でも多くの機械鉱山労働者や手工具を用いた鉱山労働者がいまだその地域で採鉱を行っており、毎年商業的に存続していける量の宝石を産出しています。
地元のサファイア鉱山労働者であり、また経験豊富なサファイアのカット職人でもあるPeter BrownがGIAチームを案内してくれました。 Peterの小規模の採鉱は非常に効率的で、たった1人で行うこともできます。 チームはまた、ルビーヴェールの大規模な機械化採鉱とRichland(リッチランド)によるカプリコーンの露天彫り、アナキー西部に位置するウィローズ・ジェムフィールズの小規模な地下鉱山も訪れました。
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観光客のことを指す。 彼らが使う粗選別と洗浄方法は、少量の水しか必要とせず、
世界中の職人的な採鉱地域で応用できる。 写真:Andrew Lucas / GIA
ブリスベンで小休憩を取った後、チームはクイーンズランド州の北端に位置する都市、ケアンズへと飛び立ちました。 そこで、チームは現地案内担当であるMt Rosey Mining Company(マウント・ロージー・マイニング・カンパニー)の社長、Michael McCann氏と合流し、ラーヴァ・プレインズのサファイア採鉱地域へと案内してもらいました。 マウント・ロージー鉱山はケアンズの南西約250キロ、ウンダラ火山国立公園の南境のすぐ外に位置しています。 他2箇所の産出地域と比べると、ラーヴァ・プレインズ地域の火山地形はオーストラリア大陸の最新の火山活動を表していて、とても見やすいです。 サファイア関連のマクブライド玄武岩は8~0.1Maの年齢幅があります。 噴石丘やクレーター、部分的に崩れたクレーターの壁、溶岩流などは簡単に見て取れます。 サファイアが発見されるのは、溶岩流表面内部に存在する、または割れ目や断層に関連している、線状のくぼみ沿いの砂鉱および堆積物の中です。
マウント・ロージー鉱山キャンプは、タイ・サファイア鉱山と呼ばれる歴史的な採鉱作業地域に位置しています。 過去の採鉱施設や複数の人工ダムがまだ存在しています。 この鉱山に関する記録が残っていないため、タイ鉱山の労働者がここを去った理由も不明です。 チームはまた、スコッツ・マインと呼ばれる歴史的な採鉱現場も訪問しました。 放棄された採鉱・選鉱機材を見るに、この鉱山はかなり大規模なものだったと思われます。 この鉱山に関する記録も発見されていません。
石
オーストラリアのサファイアは火山活動と関連付けられており、母岩は玄武岩とされることがよくあります。 タイとカンボジア、中国、ベトナム、そしてナイジェリアのサファイア鉱床も玄武岩を母岩としています。 通常、こういったタイプの鉱床の鉄含有量はミャンマー産などの大理石内で形成されるサファイアのものよりも高いため、青色が濃い石になります。 また、大理石母岩のものよりも強い緑の多色性色成分を持つこともたびたびあります。
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オーストラリアでは明るい青色のサファイアも産出している。 写真:©GIAとTino Hammid
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オーストラリアのサファイアのほとんどがこのダークブルーの石で、一部にはほとんど黒に見えるものもあります。 しかし、中には明るい青のサファイアもあり、黄色や緑の石や、緑と黄色、青と黄色などの複数の色の組み合わせを持つパーティカラーの石も見られます。 海外の卸売業者はパーティカラーのサファイアにさほど興味を示しませんが、鉱山労働者は高い価値を見出しており、自身の妻にプレゼントすることがあります。 ピンクサファイアは貴重で、オレンジサファイアはそれよりもさらに稀少です。 また、オーストラリアはブラックスターサファイアや稀少なグリーンスターやイエロースター、ブルースターサファイアの産出でも知られています。
人々
我々のチームは光栄にも、数十年もの経験があり、市場の様々な変化を目にしてきたオーストラリアのサファイア産業のメンバーと交流の場を持つことができました。 GIAチームの遠征のガイドであるTerry Coldham氏は、採鉱、カッティング、マーケティング、そして卸売において50年もの経験を持つ業界の第一人者の1人であり、国際的なサファイア産業に多岐に渡って関わってきました。

1969年から1979年のブーム中に起こったサファイア産業の規模の巨大化、そしてその後のより垂直統合型の小規模ビジネスモデルでの採鉱運営の減少という激動の変化を経験してきた鉱山労働者にも出会いました。 競争に勝つために、運営は全て非常に効率的かつ革新的にならざるを得ませんでした。
Peter Brown氏は1974年、古いVWビートルに乗ってクイーンズランド州のルビーヴェールにあるサファイアの宝石産地を訪れ、キャンプを設立しました。 そこで野菜の栽培を始め、肉を得るために野生の動物を獲りました。 同世代の人々は、Peterを無一文のヒッピーとして記憶しています。
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その後Peterと妻のEileen、そしてその息子たちはサファイア採鉱事業を立ち上げ、成功を収めました。 一家は自分たちが採掘した石の一部を自身でカッティングしてジュエリーを製作しており、Rubyvale Gem Gallery(ルビーヴェール・ジェム・ギャラリー)という小売店も経営しています。 また、鉱山労働者のコテージを観光客用の宿泊施設に改装し、店の隣にはレストランを開きました。 Brown一家は一貫した鉱山~市場企業を運営しているのです。
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Peter Brown氏の妻Eileen。 写真:Andrew Lucas / GIA
Jack Wilson氏も長年に渡る様々な変化を目にしてきた1人で、現在は息子と共に露天掘りの採鉱事業を運営しています。 Jackの父親は、ニュー・サウス・ウェールズ地方でのサファイアの採鉱を1964年に始めました。 Jackは現在、妻と2人の息子、そして少人数のスタッフと共にキングス・プレインズで採鉱と事業運営を行っています。 Jackは磁気分離器を導入し、サファイアから磁性の鉱石を分離することで、処理過程で高い効率性を実現しました。 少ない労力でも得られる結果を大きくし、国際競争に生き残るため、オーストラリアのサファイア鉱山労働者は効率性を追求しました。
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Vincent Pardieu/GIA
Jack Wilson氏は、国際競争に勝つには原石のみを卸売市場で販売するのではなく、タイの工場でサファイアのカットを行った後、完成した宝石を販売しなければならないと気付きました。 Jackの一家はインヴェレルで小売店も経営しており、加工の済んだサファイアやジュエリーを観光客に販売しています。
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我々は複数のサファイア鉱山労働者との交流の場を設けました。非常に効率的な機械化された露天掘り鉱山を所有するDaryl Mosly氏や、手持ちの削岩機で地下採鉱を行う小規模な鉱山労働者の集り、TanzaniteOne(タンザナイト・ワン)の元採鉱企業であるRichland(リッチランド)が運営するカプリコーン鉱山と呼ばれる(南回帰線に近接することに由来)新しくモダンな大規模露天掘り鉱山のスタッフ、そしてラーヴァ・プレインズ地域でMichael McCannが管理する新たな鉱山の労働者などが集いました。 最終的に我々のチームは、革新的かつ効率的な独立鉱山労働者や小規模鉱山労働者、フォシッカーと呼ばれる趣味採鉱者、そして大規模な鉱山運営関係者など、多彩な人々と出会うことができました。
国際的サファイア産業へのオーストラリアの貢献
数十年に渡り、オーストラリアは国際的なサファイア/カラー宝石産業に多大な貢献をしてきました。 1950年代後期から1960年代初期のオーストラリアのサファイア鉱山労働者は、インヴェレル近くのスズ鉱山で使われていたジグをサファイア採鉱用に改造し使用していました。 時が経つにつれ、サファイア回収に使われていた単純な流し桶に振動ジグとトロンメルを組み込んだ、より洗練されたシステムが作られました。 また、磁気分離器を用いることでスピネルや一部の酸化鉄素材が分別できると発見し、手作業での選別が必要な素材の数を大きく減らすことに成功したのです。 こういったジグを改良したものが、東南アジアやアフリカなどのカラー宝石採鉱地域の多くで使用されています。
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オーストラリアとタイのつながりは、現代のサファイア市場の形成に一役買いました。 タイからの需要が、1969年から1979年の生産最盛期に繋がったのです。 結果として採鉱事業の数は増え、さらに大規模な機械化された事業も増えていきました。 それに伴うオーストラリア産サファイアの大量流入により、タイのサファイアのカッティングや処理、取引市場の規模が拡大していき、タイを国際サファイア産業の第一線に立たせることとなりました。 その主要な要因は、タイのディーラーがオーストラリア産のサファイアの透明度を上げるために加熱処理を行ったことでした。これによって、以前は販売できなかったオーストラリアのサファイアをファセットしてジュエリーにあしらい、世界中で大量に販売することが可能になったのです。 大量の規格サイズにカットされたブルーサファイアがオーストラリア産の原石から切り出され、大量ジュエリー製造業者に供給された後、大規模な小売業者に渡りました。
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これはタイのサファイア産業が成長する材料と資金を作り出すだけでなく、世界各地の消費者が標準的な品質の宝石としてオーストラリアからのダークブルーサファイアを買い求めることに繋がりました。 その後、タイや中国、カンボジア、ベトナム、そしてナイジェリアといった他国からの火山関連のサファイアが消費者の手に届くようになりました。 タイは様々な産地からのサファイアのカッティングおよび処理の中心地となりました。スリランカで産出されたギューダ・サファイアもその1つで、1970年代後期には半透明の灰色がかった素材を処理することで、とても魅力的な青色を作り出しました。
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体現している。 写真:Vincent Pardieu/GIA
過去数年で需要は増加していますが、それでもまだブーム期ほどではありません。 今では、以前は興味を示さなかった大きなダークブルーブラックのサファイアを求めて、タイのバイヤーがオーストラリアのサファイア産地をまた訪れるようになっています。 ベリリウム処理により、そういったサファイアを魅力的な金色にすることが可能になったからです。 新たな処理により、再度需要を高めることができたのです。
Dr. Tao HsuはGems & Gemology(宝石と宝石学)の技術編集者です。 Andrew Lucasは、GIA カールズバッドの教育担当フィールドジェモロジィマネージャーで、Vincent Pardiewは、GIAバンコクのフィールドジェモロジィシニアマネージャーです。
筆者はこのオーストラリアの遠征の計画段階から参加し、車でオーストラリア奥地を横断するまで精力的に尽力した上、寛大にも50年以上のサファイア産業における経験から得たその豊富な知識を共有してくれたTerry Coldham氏、Gemmological Association of Australia(オーストラリア宝石学協会)、そしてオーストラリアのサファイア産業の鉱山労働者、研磨士、卸売業者、小売業者など、お世話になったすべての方に感謝の意を表したいと思います。