稀少な書籍のプロジェクトにより、宝石と宝飾品の歴史に手が届くように

Jaime Kautsky

11月 11, 2016

多大な責任感を感じながら、本のページを慎重にめくるのは「非常に神経を使います」とSarah Ostryeは語ります。 

彼女が手にしたのは普通の書籍ではなく、GIAで所蔵されている64,000冊のコレクションの中で最古とされる、516年前に執筆されたプリニウス著『Natural History（博物誌）』の複写でした。

GIAのRichard T. Liddicoat Gemological Library and Information Center（Richard T. Liddicoat宝石学図書館/情報センター）で研究司書およびデジタルアーカイブ担当者を務めるOstryeは、カルティエの希少本書庫および資料室の棚より、宝石学、鉱物学、宝飾品における最も稀少で価値のある数千冊の書籍に世界中のコミュニティが簡単にアクセスできるようにするという活動を数年間に渡って率いています。

現在までに、GIA図書館に所蔵されている200冊以上の歴史的に重要な書籍がデジタル化され、非営利のデジタル図書館インターネットアーカイブを通じて無料で閲覧できるようになりました。一般の方々の間でも好評をいただいており、2015年7月にプロジェクトが発足されて以来、書籍の毎月閲覧数は着実に増加し、2015年7月には378件であった閲覧数が2016年9月には1,922件となりました。

これは、GIA図書館ディレクターおよびデジタル化プロジェクトの設計者であるDona Dirlamにとって朗報です。

これらの情報を提供することによって、一般の方々にもっと信頼していただけると思います。宝石学と宝飾業界の現状と将来は、歴史に関して深い知識を持つことにかかっています。それが、私たちの業界の科学とビジネスを理解するための基盤となるのです、とDirlamは説明します。

すべての人々へのアクセス

このプロジェクトの目標は、朝にコーヒー飲みながら新聞を読むのと同じように、1817年に出版されたのSowerbyの『British Mineralogy（英国の鉱物学）』を簡単に読めるようにすることです。以前はカリフォルニア州カールスバッドにあるGIA本部に予約をしてから訪問をしなければいけなかったのですが、現在ではマウスでクリックするだけで閲覧できるようになりました。

Dirlamは、GIA図書館で85年間にわたり保管されてきたコレクションをより多くの方々に閲覧してもらえるように30年近く取り組んできました。（GIAが1988年にJohn and Marjorie Sinkankas宝石学図書館を買収したとき、コレクションのサイズが圧倒的に増加しました。）

Sinkankasコレクションを入手した後、このコレクションとGIAに既にあった希少本のコレクションに図書館の物理的な壁を越えて、どのようにしたらもっとアクセスしていただけるかについて考え始めました。John Sinkankasは、彼が生涯かけて収集した作品をできるだけ多くの人に見てもらうことを望んでいました。技術が進歩したおかげで、このプロジェクトによって人々が図書館に簡単にアクセスできるようになり、世界中の方々が書籍を閲覧できるようになりました、とDirlamは述べます。

図書館のマネージャーであるPaula Rucinskiを含むDirlamのチームは、何年もの間、地球科学図書館の司書からロサンゼルスのGetty Conservation Institute（ゲティ・コンサベーション・インスティテュート）のスタッフに至るまで数多くのデジタル化の専門家に相談しました。計画は最終的に2014年後半に具体化し、GIAの経営陣が予算を承認し、2014年12月に特別の装置を購入し、Ostryeが雇用されました。

GIAの図書館員は、図書館のコレクションをデジタル化するにあたり書籍の優先順位を判断するために、科学者や宝飾業界のリーダーたちの意見を求めました。最も稀少な書籍、および著作権侵害がないもののみを追加しました。

ルネッサンスに至るまでの全ての科学における基礎であり、今尚存在するローマ帝国時代からの最大の書籍でもあるプリニウスの百科事典に加えて、先にデジタル化された書籍には、1801年発行のRenée Just Haüy著『Treatise of Mineralogy（鉱物学に関する学術論文）』、1511年のBishop Marbodeの論文『Book of Precious Stone（貴石の本）』などがあります。Marbodeの作品は中世最古の宝石細工に関して説明しており（宝石に関する書籍）、グーテンベルクの可動式活版印刷機で印刷された彼の初の作品です。

ロシアのロマノフ王朝のレガリアと王冠の宝石を紹介する1925年から1926年のカタログは特に稀少であり、デジタル化された200冊目の書籍でもあり、一般の方々はこの406点のコレクションを初めて見ることができました。

また、このデジタル化プロジェクトでは、これらの稀少で細心の注意を要する書籍が常に大切に保護されるように手段を講じています。

このコレクションを慎重に保存し、安全に守るためにあらゆる予防措置を取っています。Sinkankas図書館の書籍や他の希少本は、温度と湿度が制御された部屋に所蔵されています。万が一、洪水や火災などの自然災害が発生して書籍が損傷しても、全ての文章、写真、イラストを保存したデジタルファイルがあります。これらの書籍は、宝石や宝飾品に関する物語を伝え、これから何世代にも渡って多くの方々がアクセスすることができます、とDirlamは述べます。

緻密なプロセス

デジタル化プロセスは細心の注意を必要とし、通常は処理が困難とされる資料からデジタルファイルを作成する任務を担当するOstryeや研究司書のAugustus Pritchettなどの技術者にとっても非常に複雑なものです。

文章が本ののどに非常に近かったり、綴じが壊れかけていたり、繊細なティッシュペーパーで覆われていたり、折り込みがプラテンガラスに合わなかったりすることがあります。このような場合は時間がもっとかかり、より慎重に作業する必要があります、とOstryeは説明します。

この2人は、カルティエの希少本書庫および資料室の近くにある安全な部屋で交代しながら作業を行います。この部屋には高度なデジタル化処理をする装置（Digital Transitions（デジタル・トランジションズ社）のBC100ブックキャプチャシステム）があり、無理やり本を平らにして本の背を傷めることなく、丁寧に本を扱うことができます。技術者は、ページをとばしたり、破かないように1ページずつ手でめくり、高解像度の画像として保存した後に編集してTIFFファイルに変換します。処理後に使用するソフトウェアは、ローマ字、キリル文字、中国語、日本語、韓国語など、異なるアルファベットでもPDFや電子書籍を検索するのを可能にします。 

サイトへの訪問者が毎月より多くの書籍をダウンロードしており、Ostryeは図書館が研究のトレンドを調査するためにも役立っていると説明します。 

どの書籍が最も閲覧数が高いかを判断することで、どのようなトピックが最も人気があるかがわかります。最も閲覧されている書籍の多くは、宝石やジュエリーデザインの歴史を扱ったものです、とOstryeは述べます。

Dirlamは、GIA図書館が電子書籍や電子カタログを増やすことも検討しており、デジタル化を望む書籍があれば、一般の方々からの提案も歓迎していると説明します。これはGIA図書館がプロジェクトを通して宝飾業界や一般の方々と関わっていく一つの方法であり、宝石や宝飾品に関して一般の方々から信頼を得るために欠かせないことだと彼女は理解しています。

世界各地の宝石・宝飾業界における貴重な書籍、文献、その他の資料をデジタル化して保管することは、GIAの使命を全うするために非常に重要です。Marjorie Sinkankasが「私たちは、短い期間に世話をするだけです」と言ったように、これらの書籍がこれから何世代にもわたって大切に扱われて、利用できるようにすることが私たちの使命なのです、とDirlamは語ります。