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ポルキダイヤモンド:インドのムガルからの「新しい」ファッションステートメント


87個のポルキカットダイヤモンドが特徴のSally Agarwalのブレスレット。
古いスタイルのポルキダイヤモンドが、新しいジュエリーデザインにうまくマッチしているスリーストランドブレスレット(制作Sally Agarwal、ロンドン)。 総重量約11.85カラットのブレスレットは87個のポルキカットダイヤモンドで作られており、 18Kゴールドにセットされている。 写真提供:Sally Agarwal

有名なジュエリーデザイナーであるJade Jaggerが数年前に「ポルキ」ダイヤモンドを特集した宝石のシリーズを紹介した際には、多くのジュエラーたちがその意味を辞書で調べなければなりませんでした。

実はポルキダイヤモンドは最も古いダイヤモンドのカット形式のひとつであり、西欧のカット方法がインドで見られるようになるかなり前に、インドで生み出されました。 ポルキダイヤモンドは元の原石の形状を保ち、ファセットはされておらず、研磨された表面をしていることが多いです。 ポルキダイヤモンドは今でも主に結婚式用のジュエリーとして伝統的なインディアンジュエリーのデザインに使用されていますが、ロンドンを拠点とするJaggarやその他のデザイナーたちにより、作品に取り入れ始められました。

ロンドンに拠点を置く別のデザイナーであるSally Agarwalによると、その魅力は「ポルキダイヤモンドは元の原石の形に沿ってカットされている場合がほとんどで2つとして同じ形はなく、それぞれの作品に個性がありユニークなところです」さらに、ポルキダイヤモンドに惹きつけられるもうひとつの理由があります。 「ポルキダイヤモンドが放つ光は現代のカットの輝きと比較するとはるかに柔らかく、着用者をとても嬉しい気持ちにしてくれます」

Jade Jaggerのデザインは、ゴールドとエナメルのリングにベゼルセットされた約0.5カラットのポルキダイヤモンドを特徴としている。

ゴールドとエナメルのリングにベゼルセットされた約0.5カラットのポルキカットダイヤモンド(制作Jade Jagger)。 多くのポルキカットダイヤモンドはたくさんの含有物を含み、その独特な外観を引き立てる。 写真提供:Jade Jagger スタジオ、ロンドン

Jaggerの作品の多くは、ラピスやサファイアにポルキダイヤモンドが組み合わされています。 Agarwalの作品は、伝統的なムガルジュエリーの外観に花や幾何学的な模様のモチーフを掛け合わせています。

インドはダイヤモンドの最初の原産地であり、宝石が発見されたその歴史は3千年遡ります。 ダイヤモンドに価値を見出し着用する文化が最初に根付いたのはインドであり、世界的に伝説となっている多くのダイヤモンドはインドで発掘されました。ホープダイヤモンド、コ・イ・ヌール、ヴィッテルスバッハグラフ、サンシー、リージェントは最もよく知られています。

英国の宝石歴史家であるJack Ogdenは、インドで行われた宝石カットの最古の報告は有名なペルシア人学者のal Biruniにより行われたと述べています。al Biruniは西暦1020年頃にインドを訪問し、カット技師たちは粉末状のコランダム、水マンガン鉱、もしくはスピネルまたはヘマタイトから成る暗い粒状鉱物のエメリーを「宝石のカット、やすり仕上げ、ポリッシング」に通常は使用していたことを記しています。もちろんエメリー(モーススケール7〜9)はダイヤモンド(モーススケール10)をファセットをすることはできないので、カット技師たちはそれを原石の表面を研磨するために使用していました。

Ogdenは、古代および中世インドのカット技師たちがカットにダイヤモンド粉末を使用する技術を知っていたかどうかは明らかではないとしているものの、700年後においても多くのインドのカット技師たちは油を混ぜたエメリーを使用していたことから、カット技術の変化は少しであったように思えることを示しています。 ほとんどのダイヤモンドと宝石は縦に設置された石の回転盤で作業が行われました。 回転盤は一方向に回転を続けるのではなく、研磨技師が回転盤に取り付けられた弓を片方の手で押したり引いたりすると、それに合わせて前後に回転をします。もう一方の手で石を持ち、研磨作業が行われていました。  

ポルトガルの探検家であるVasco da Gamaは、1490年にインドとの定期的な接触を確立するために最初のヨーロッパ遠征を導いた人であるとして広く認められています。 John Baptiste Tavernierがインドへ辿り着いた有名な航海はその200年後であり、ダイヤモンドを含む宝石の貿易を繁栄させました。 Tavernierによると、その頃にはインドのカット技師たちの中には研磨用の回転盤にエメリーと粉末状のダイヤモンドを使用してダイヤモンドを切断し、浅いファセットをする技術を持っている者もいたそうです。 彼は、それらの通常縁が面取りされた長方形に近い形のムガルカットを、ひし形、均等性のない楕円形、洋梨形と呼びました。 Ogdenによると、後半の2つには小さな角度がついたファセットがありました。 クラウンに平板状のファセットがわずかに施されたものは、ポルキカットと呼ばれました。   

西洋とインド間の貿易は、次の世紀に成長を見せました。国の様々な公国を統治する王族は、西洋の主要な熟練ジュエラーたちの常連顧客となりました。 王族たちは、現代のブリリアントカットの先駆けとなる、ヨーロッパにてカットおよび研磨が行われたダイヤモンドを数多く購入しました。

C. Krishniah Chetty & Sonsの伝統的なムガルスタイルの真珠、ルビー、エメラルド、ポルキダイヤモンドのネックレス。 写真:Eric Welch/GIA

カリフォルニア州のGIAでカット研究マネージャーを務めるAl Gilbertsonは、インドと西洋のカット技師たちには根本的に異なるアプローチがあったと述べています。
 
「ムガルカットには特定のファセットの配置がなく、カット技師は欠陥のある部分のみを取り除き可能な限り大きなサイズの宝石を作ろうと努力したために、不規則で非対称な形をしています」と彼は述べます。 「初期のヨーロッパのスタイルでは八面体結晶のデザインに沿うことが望まれており、その後ゆっくりと、15世紀には光が反射して見えるスタイルへと移行していきました。 このことにより、反射する光が見えるようにデザインされた大きなトップファセット(テーブル)と、様々にアレンジをされたパビリオンを持つスタイルが増えていきました。

19世紀初頭までに、ヨーロッパのカット技法はインドのカット技師たちに採用されるようになりました。 とはいえ千年以上にわたりインドのカット技師たちは天然の形に近くカットをする方法に忠実であったため、これらの伝統的なカット技法はインドの宝石のスタイルに染み付いています。 今日では、ポルキの名前はインドの様々な伝統的なカットに適用されています。

ムンバイを拠点とする小売店Jaipur Gems(宝石)のSiddhartha Sachetiは「ポルキダイヤモンドは多くの結婚式用ジュエリーで使用されており、今でもとても伝統的なものです」と語ります。 「それらのジュエリーは通常、伝統的なインドジュエリーのように銀箔で裏打ちされ、さらにエナメル加工が施されています」  

Sachetiはまた、ダイヤモンドカットの外観は過去数世紀のものと似通っているものの、ポルキダイヤモンドの製造工程はラウンドブリリアントダイヤモンドと同様に現代化されています、と説明します。 「ポルキダイヤモンドはレーザーを使ってスライスされた後、機械により研磨またはファセットカットが施されます」とSachetiは述べます。

ポルキダイヤモンドは通常ブリリアントカットまたは現代的なファンシーカットよりも安価なため、ダイヤモンドメーカーは含有物が多い、またはクラウドはあるが良い色を保っている原石を使用します。 「含有物のある石をモダンなカットに使用すると、とても小さくなってしまいます」とSachetiは語ります。

ジャイプールのAmrapalli Jewels(アムラパリ・ジュエルズ)のムガルスタイルのネックレス
ジャイプールのAmrapalli Jewels(アムラパリ・ジュエルズ)のこのムガルスタイルのネックレスは、彫刻が施されたエメラルドにセットされた大きなポルキカットダイヤモンドを特徴としており、周囲はポルキカットダイヤモンドで囲まれている。 また、2つのカボションサファイア、養殖の南洋真珠とポルキカットダイヤモンドも特徴となっている。 写真:Eric Welch/GIA

ロンドンとムンバイの店舗、および豪華なウェブサイトでの宝石販売を行うAgarwalは、カラット価格の低さが店舗販売での低価格へ必ずしも反映されるわけではありません、と述べます。

「それらを扱うには困難が伴うこともあります。 最初に、色と形によりお互いを高め合うような、満足のいく石が見つかるまで待たないといけないことが多いです」と彼女は話します。 「次に、既製品を使いセッティングをすることができません。 すべてを手作業で行う必要があり、熟練の技師を見つけることは容易ではありません」

現代のポルキダイヤモンドジュエリーは、その原点へ戻る傾向にあります。 Sachetiは現代的な外観のポルキジュエリーを作り始めました。インドの若い世代のバイヤーは「東と西の両方を見ている」からです。

Russell ShorはカールスバッドのGIAのシニア業界アナリストです。