業界分析

高級品会社、富裕減少の時代に適応する


バーゼルで紹介されたドゥ・グリソゴノの「Crazymal」コレクションでは、高級ラインナップにユーモアと職人技を組み合わせています。 このピンクのフラミンゴのリングには、18k ゴールド、ピンクサファイアと無色のダイヤモンドが使われています。 提供:ドゥ・グリソゴノ
バーゼルで紹介されたドゥ・グリソゴノの「Crazymal」コレクションでは、高級ラインナップにユーモアと職人技を組み合わせている。 このピンクのフラミンゴのリングには、18k ゴールド、ピンクのサファイアと無色のダイヤモンドを使用している。 提供:ドゥ・グリソゴノ

腕時計ブランドが宝石だらけの派手な外見をやめ、より芸術的なアプローチへと方向転換したことを受け、高級ジュエリーデザイナーもそれにならって真剣に見直しをしているにも関わらず、多くの出展者にとって3月23~30日のBaselworld Fair(バーゼル・フェア)は困難な状況でした。 これは、Baselworld 2017のいたる所で見られました。そもそも、今年はショー自体が市場の実勢と衝突していました。

このフェアでは、大手時計ブランドに加え、高級ジュエリーブランドや極めて最高級の宝石も集まります - ファンシーカラーダイヤモンド、10カラット以上のカラーレスダイヤモンド、そして高級未処理カラーストーンなどです。

多くのファンシーピンク(アーガイルが過去3回オークション入札した品もありました)や、青や黄色のダイヤモンドが、宝石展示ホールで売られていました。 市場で現在最も大きい二つのファンシービビッド・バイオレットダイヤモンドさえも展示されていました。 さらに、10カラット以上の D Fl タイプ IIa のダイヤモンドや、100万ドルから750万ドルのカシミールのサファイアが数点、そして3500万ドルのネックレスを含む、非熱処理のビルマのルビー群なども見受けられました。

こういった珍しい宝石群が集まるのは世界中のどこにもないにもかかわらず、購入のほうはまだらでした。 確立された顧客層を持つ業者は、より主流な市場向けの高級商品を提供して、売上目標を達成していました。 最上級品の出展者のほとんどは、苦戦していました。 また、贅沢品の積極的な消費者だった中国のバイヤーが減り、希少な宝石を求める投資家が高い価格に対し慎重になってきたため、バイヤー数のほうも、今年は減少の一途を辿っています。

この理由に関しては、さまざまな意見がありました。 一方で、ファンシーピンクやブルーダイヤモンドがカラット当たり100万ドルを超えている現在の価格は、すでにピークを達していると主張する者がいます。そのために、投資家や極めて裕福なジュエリーバイヤーも買え控える、ということです。 それに対し、ほとんどの主要市場で政治や経済情勢が不安定であるために、バイヤーが現在、臆病になっていると主張する者もいます。 いずれにしても、どちらの陣営も同意するのは、ディーラーが商品に対して支払った価格を考えると、今は商品価格を下げることは選択肢にないということです。

高級ジュエリー業者は、この状態に適応しました。従来の宝石を盛りだくさん使ったラインナップに加えて、職人技とデザインの革新性を強調するようになってきました。

ジュネーブに拠点を置くドゥ・グリソゴノでは、いくつかの新しいデザインのコレクションの中に、「Crazymals」というリングやペンダントのラインナップを登場させました。小さなダイヤモンドやブラックダイヤモンド、そしてさまざまなカラーストーンを使った、風変わりで愉快なフィギュアです。

同社の創設者のFawaz Gruosiは、高級市場における変化を認識しているとしながらも、Crazymalsのようなコレクションでは、高級ジュエリーと同じように、細部に注意をはらっていると強調しています。 このコレクションでは、小動物の形のものが、非常に洗練されたジュエリー作品になっている、と彼は語ります。

もうひとつの、より伝統的な別のラインとして、ネックレスとイヤリングのIndia(インディア)コレクションがあります。これには、例えばドロップ形のホワイトオパールトルコ石、またはホワイトゴールドにセットされたオニキスに、アクセントとして密集した野生的なセッティングにダイヤモンドを散りばめたものなどがあります。 Crazymalsと同様、各作品では細部まで職人技にこだわっているということです。 Gruosi氏は、まだビジネスのほとんどは非常に大きなダイヤモンドだと強調しています。今回のショーでも、20カラットの D Fl のハート型の宝石のペアが売れたとのことでした。

これらの (大きい宝石) は、いつの時代でも魅力があり、特に金融資産としてね、と指摘します。 何か起きても、(所有者は)それを世界中どこにでも持っていくことができますから、と続けました。

この水準になると(つまり800万ドル以上は) 絶対的な最高級品しか提供できないわけですが、そういった商品は、とにかく見つけるのがとてもとても難しい、と言います。

ファベルジェを所有するGemfields(ジェムフィールド)最高経営責任者のIan Harebottle氏は、今の高級市場では、これまで以上に芸術性と職人技が重要であると述べています。

大きい宝石はますますコモディティ化しつつありますので、進むべき道としては、職人の技やデザイン性で価値を追加するしかないのです、と話します。

彼は美術品市場を引き合いに出します。絵画の世界では、何百万ドルもの値段で売られるものがいくつもあります。 実際、顔料やキャンバス、そして額自体の価値はどのくらいでしょうか?最も高価なダイヤモンドですら、こういった美術品のほんの一部分の値段しかついていないのです。

香港のAaron Shum JewellersのCoronet by Reenaコレクションを作り出したReena Ahluwaliaも、次のように述べています。 女性がフォーマルウェアを着て、そして宝石をまとうような時代は、ほとんど終わってしまったのです。 今は、よりインフォーマルに、そしてどこに行っても自分の個性を表現できる作品が求められています。

彼女のCoronetコレクションでは、メレーダイヤモンドを可動要素としてセットすることで、大きな宝石を使わずにシンチレーション(きらめき)を作り出しているのが特徴です。

他の出展者でも、彫刻されたものやカボション、あるいはドロップカットの宝石素材を使うことで、大胆でファッション志向の外観を作り出し、身に着ける冨ではなく身に着けるスタイルの提案を行っています。 例として、ドイツのイーダー・オーバーシュタインのPaul Wildは、ドロップカットのマンダリンガーネットを、彫刻が施されたピンクオパールにセットしたり、また同様に、彫刻が施された緑のクリソプレーズにカットしたアクアマリンをセットしています。

バーゼルワールドでは、ドイツのイーダー・オーバーシュタインのPaul Wild氏が、ドロップカットのマンダリンガーネットを彫刻が施されたピンクオパールにセットにしたネックレスのコレクションを披露した。 提供:Paul Wild。 写真:Russell Shor/GIA
バーゼルワールドでは、ドイツのイーダー・オーバーシュタインのPaul Wild氏が、ドロップカットのマンダリンガーネットを彫刻が施されたピンクオパールにセットにしたネックレスのコレクションを披露した。 提供:Paul Wild。 写真:Russell Shor/GIA

高級品市場と同様、このBaselworld自体も、富裕が減少するこの時代に合わせなければならなくなっています。 昨年と今年を比較すると、出展者の15%(200社ほど)が撤退しています。 香港の一団を除いては、国際セクションのほぼすべてが消滅しており、また「ブランド」展示ホールを埋め尽くしていた大手イタリアジュエリー企業の姿もありませんでした。 バイヤーとして参加した元出展者によれば、5億ドルをかけた3年前の会場の改修に伴い、参加費用が大幅に増加し、それに対して売り上げは減少ているため、もはや参加は不可能になったと言っています。

主催者側では、放棄された広いスペースをひとつ使って、特別ジュエリーデザイナーのセクションを作り、新規や小さい企業向けにブティックサイズのスペースを用意しましたが、展示会場にこれだけたくさん空きがあれば、参加者が減少しているのは明らかでした。

にも拘わらず、議論が飛び交った開催前の記者会見では主催者側は、業者が撤退したの、そのほとんどがショーの基準を満たさなかったためであると主張しました。 最終的には、このBaselworld管理側が折れ、8日間の展示を来年から2日減らし、その分出展コストを下げることになりました。

オークション

4月4日、59.60カラットのピンクスターダイヤモンドが香港の小売店、周大福に7100万ドルで落札され、この石の長引いた一連の出来事もやっとひとまず幕を迎えました。そして、オークションの価格としては史上最高を記録しました。 もともと、最初の所有者でありダイヤモンドの研磨者からシュタインメッツ・ピンクと名付けられていましたが、GIAによりグレーディングされたこのファンシービビッドピンクダイヤモンドは、サザビーズにより8200万ドルで2015年11月に香港で落札されていました。 ところがその4ヵ月後バイヤーが不履行になり、オークションハウスが購入を余儀なくされています。その額は7000万ドルと言われています。

そして今回の4月4日まで、このダイヤモンドはオークションハウスのもとにありました。 このダイヤモンドは、現在宝石として最高額を記録しているとはいえ、そのカラットあたりの価格は120万ドルであり、最近の同様のグレードのダイヤモンドの半分でしかなく、またカラット当たり400万ドルで落札された前回の記録である14.69カラットのオッペンハイマー・ブルーと比較すると、その3分の1以下にしかなっていません。
 

The GIA-graded 59.60 ct Pink Star diamond sold for $71 million at the April 4 Sotheby's auction in Hong Kong. Courtesy Sotheby's
The GIA-graded 59.60 ct Pink Star diamond sold for $71 million at the April 4 Sotheby's auction in Hong Kong. Courtesy Sotheby's

取引状況

デビアスの4月サイクル(サイト)は5億8000万ドルで、2016年4月の6億6000万ドルよりも大幅に低くなりました。 ただし、しばしばサイクル外での商品販売もあるため、この数字は増加する可能性があります。

デビアスでは、香港のショーでの好調な成果を受け、原石の需要は強いと言っています。 価格ラインは維持されており、購入を辞退または延期するクライアントもないということです。 

Russell Shor は、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。