宝石・宝飾業界における40年の歴史の回顧と展望
3月 9, 2020

今からちょうど40年前の春の雨が降る朝、私はSeymour Rosenthalという尊敬に値するダイヤモンド ディーラーに会うためにマンハッタンの47丁目を初めて訪れました。緊張してあまりにも早く到着したので、コーヒーを飲みながらBerger’s Deli で待ち、あらゆる人種や宗教の人々が街を行き交うのを見ていました。何人もの人々が将来クライアントとなる可能性のある方に石を見せるために立ち止まり、(後に学んだ)「販売価格(Ask)」を提示していました。
Rosenthal氏に会い、当時Diamond Trade Association(ダイヤモンド取引協会)の会長を務めていた同氏にこのことを告げると、「重要なのは、正直で、適切な価格で適切な石を持つことのみです」と私に言いました。私はこの業界を非常に気に入るだろうとすぐに自分自身に言いました。
私は間違いなくこの業界に惹かれています。そして、この業界に携わる人々が大好きです。
また、この業界は大家族のようなもので、たわいない論争があったり、激しく競争するときもありますが、ここ一番で団結する、とRosenthal氏は説明しました。私は、このことをその後まもなく実感しました。シンガポールのダイヤモンド企業を訪れたとき、会話が終わった途端、ディーラーが椅子から立ち上がり、手のひらを上にして振りながら「ちょっと来て」と言うのです。
どこに行くのか尋ねると、
一緒に安息日を過ごそうと言われました。
家に来て欲しいのかと聞くと、
「ここに来たら、あなたは家族です」と言われました。
それから数年後、インドのスーラトを訪れました。「兄弟姉妹の日」で休日であったため、ほとんどのダイヤモンド企業は休業でした。ダイヤモンド製造事業のオーナーが、同行していたデビアスのブローカーと私が滞在していたホテルに来て、4人の兄弟が待っている彼の家に私たちを招待してくれました。
「あなた達は兄弟のようなものですから」と言い、以前にあまり会ったことがないのにもかかわらず、その日の残りの時間を兄弟のように扱ってくれました。
このようなことは、おそらく他の業界でもあるかもしれませんが、私たちの業界特有の性質のひとつであると感じています。
そして、もちろん、良い人々だけでなく素敵な宝石にも恵まれています。幸運なことに、Letseng(レツェング)から産出された910カラットのダイヤモンドをはじめとする、数多くの見事に素晴らしい高級の宝石・宝飾品を手にして検査する機会をいただきました。15カラットのカシミール サファイアからはビロードのようなブルーの輝きが放たれ、世界の残りの部分がどんよりとして見えたほどです。また、フランス王妃マリー アントワネットが着用した大きなドロップ形の真珠、エカチェリーナ2世の宝飾品 の一部であった70カラットのエメラルド、ファンシー ディープ ブルーのHeart of Eternity(ハート オブ エタニティ)ダイヤモンドも目にする機会がありました。混雑した見本市では、ジェードのネックレスの緑色があまりにも強力であったため、思わず足を止めたこともありました。
何よりも素晴らしいのは、これらがすべて自然より偶然生まれた美しい賜物であるということです。偶然の力と素材が一体となり、結晶化して、魔法のような素敵な宝石が誕生するのです。これらは、他の業界では体験できない特権です。
もちろん、宝石・ダイヤモンド業界は、私がこの業界に入ってからこれまでに幾度かの変革を遂げてきました。Rosenthal氏は、私が会ったときには、小さな真鍮の重みでバランスをとる古いダイヤモンド スケールを机の上にまだ持っていました。デジタル革命は始まったばかりでした。
過去40年間にダイヤモンドと宝石産業で起こった変化を振り返るのは、膨大な量となり、あまりにも長く時間がかかりますが、ここにそのうちのいくつか代表的なものを紹介しましょう。インターネットがすべてを変えて、依然として色々な物事に変化をもたらしていると毎日のように聞きます。また、女性がビジネスの中で正当な地位を占めるようになりましたが、まだ道のりは長いようです。企業の責任と倫理的な調達が支持を得ているものの、おそらく遅々として進んでいない領域も一部にあるでしょう。そして、デビアスがダイヤモンド取引を支配していた時代は終わりを告げました。

「古い」デビアスについてどのような考えを抱いていたにしても、デビアスは市場での秩序を維持し、ダイヤモンドのビジネスが道から外れるのを防ぎました。過去10年間、残念ながら多くのダイヤモンド会社が、長年にわたり宝飾業界を機能させていたベスト プラクティスの慣行を廃止しました。現在、巨額の債務不履行を受けて大手銀行が融資を断り始めた後、業界全体が多大な被害を受け、特にこれらの企業の信用リスクを膨らませています。
将来的には、ダイヤモンド業界は深刻な向かい風に直面しています。中国はこれまでに多くの成長を遂げてきましたが、Bain & Co.(ベイン アンド カンパニー)が 10年前の初頭に予測したあらゆる問題の解決策ではありません。そして、ミレニアル世代は、住宅費、医療費、負債の増加など、金銭的な課題に直面するため、自由裁量所得がますます減少するでしょう。
このようなストレスの多い経済環境では、ラボラトリー グロウン ダイヤモンドは、そのファイアーやブリリアンスの美しさに依然として魅了されている一部のバイヤーにとって、これまで以上に魅力的に見えるかもしれません。ダイヤモンド鉱山会社は、顧客と協力して、ミレニアル世代の消費者にアピールする魅力的な物語を紹介し、ラボラトリー グロウン ダイヤモンドの参入に対処しています。これらの企業は、ミレニアル世代の消費者が、天然ダイヤモンドのほうがより好ましいと思うことを願っているのです。
一部のダイヤモンド ディーラーは、ダイヤモンドをより「天然」のものに見せるために成長過程をわずかに調整し、宝石鑑別ラボがそれらを看破できるかどうかを確認するために「テスト」を試みてきました。幸いなことに、GIAが研究に注力する膨大のリソースおよびGIAのスタッフが有する専門知識のおかげで、GIAはそのような試みに先んじ、すべてのラボラトリー グロウン ダイヤモンドおよび既知の処理を引き続き確実に検出することができています。
私は、これまで40年間の宝飾業界に関する物語をお伝えすることができ、非常に光栄に思っており、お伝えできる良い物語がまだ数多くあると信じています。この業界にもう少しとどまり、これからも物語をお伝えし、宝石や宝飾品に関わる世界を満喫したいと思います。
ただし、私が決して変わらないことを望んでいることが一つあります。それは、倫理的で、適切な価格で適切な石を持っている方は誰でも暖かく歓迎される、ということです。
Russell Shorは、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。