インド - ジャイプール:エネルギッシュなエメラルドのカット・取引の地
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「ピンク・シティー」とも呼ばれる歴史ある都市ジャイプール(インド)は、ラジャスタン州の州都であり、宮殿や砦の名所、モーグルの歴史、伝統的な衣装で象に乗って結婚式場に現れる新郎などが見られるほか、世界有数のカラーストーン宝石のカット及び取引産業を備える魅力的な都市です。 ジャイプールはまた、ジュエリー製造のハブでもあります。 ジャイプールにおけるジュエリー産業は1700年代初期まで遡りますが、この時期は、同市がアンベール王国の君主であったジャイ・シング2世によって設立された時代と重なります。 ジャイプール成立初期には、腕のいい一流の職人(ジュエラーなど)を呼び寄せることに重点が置かれました。これにより、王室一族用の高級品を作らせ、ジャイプールを高級で豪華な作品製造の中心地にしたいという意図があったためです。
ジャイプールのエメラルド産業
今日ジャイプールは、カラーストーンのカッティングとジュエリー製造において、最も近代的な生産設備と技術、そして伝統的な工場や職人を兼ね備えています。 ダイヤモンドに関しては、インドではスーラトがカットおよびジュエリー製造の中心地ですが、ジャイプールは、カラーストーン宝石のカットとジュエリー製造に焦点を当てています。 タイおよびスリランカはルビーとサファイアのカット、処理、取引でよく知られますが、ジャイプールは、広範な種類のカラーストーンのカット、取引、ジュエリー製造や、世界でも有数のエメラルドのカットおよび取引の中心地の一つとして知られます。
エメラルド原石の産地
ジャイプールのエメラルドカット産業において、主要な原石供給地はザンビアですが、ブラジル(主にバイーア州の鉱山)からも供給があります。 コロンビアは主要なエメラルド産地として有名ですが、その石の大部分(特に高品質のもの)は現地でカットされます。低品質の素材はジャイプールでカットされます。 今日、ジャイプールでカットされる多くの原石はザンビア産のもので、他の全ての供給地からの石を合わせても、ザンビア産の割合に至りません。
Gemfields(ジェムフィールズ)のオークションを通じて、ザンビアの Kagem 鉱山(Gemfields 所有)とその他のザンビアの採掘地で産出されたザンビア産原石が、ジャイプールのカット職人の元に届きます。 Gemfields のオークションが、ジャイプールのエメラルド産業を大きく変えたのです。 ジャイプールでは今、エメラルド原石が定期的に手に入り、一貫したグレーディングが行われ、妥当なパーセルへと分けられていきます。 ここ何年もオークションではいつも、パーセルの品質が非常に一貫しています。 これにより、エメラルドの照合、ビジネスモデルの立案、顧客への信頼性のある供給がはるかに容易になりました。 パーセルに正確で一貫したグレーディングを行う動きは、業界を通じて広がっています。 独立したザンビアの生産者の中には今でも、品質のまばらなパーセルや、鉱山での産出分すべてをジャイプールのエメラルド産業に販売する者もいますが、全体的に言って、Gemfields やバイーア(ブラジル)のブローカーのような他の生産者から得られる、一貫したグレーディングの行われたパーセルが歓迎されます。
GIA の遠征 ジャイプールエメラルド産業
2015年春には、カールスバッドとインドの GIA のメンバーがチームを組み、ジャイプールを訪れ、宝石・ジュエリー業界全体についての記録を行いました。 ジャイプールの産業および世界のエメラルド産業にとって非常な重要性を持つことから、エメラルド産業は我々が焦点を当てた部門の一つでした。 我々はエメラルド産業で、異なる部門に焦点を当て異なるビジネスモデルを持つ3社を訪問しました。
そのうちの2社は共にニューヨークに本社を置く Real Gems Inc.(リアル・ジェムズ社)の一部ですが、一社は高品質、もう一社は商業品質の製品を扱っており、異なる市場部門に向けて製品をカットしています。 第三の会社は、ジャイプールで活動する外国人バイヤー向けの商品をカットし販売しています。 原石調達のビジネスモデル、購入戦略、最終顧客のどれをとっても、3社それぞれに異なっています。 3社は全体として、ジャイプールのエメラルド産業における重要な戦略を示しています。 我々は、これらの企業のオーナーと幹部にインタビューを行い、製造施設を写真およびビデオで広範に記録しました。
ニューヨーク市の Real Gems, Inc. は、エメラルド業界で40年以上の歴史を持つ家族経営の会社です。 コロンビア、ブラジル、ザンビアなどの主要な産出国からエメラルド原石を調達し、石のカットを行っています。 原石はインド、ジャイプールの提携先を通じ、同社の製造施設でカットされます。 Real Gems, Inc. は、精密にキャリブレーションされた1ミリのラウンドに始まり、50カラット以上のエンハンスメント処理なしの石まで、広範なサイズや品質の品を販売しています。 ニューヨーク、香港、ドバイ、バンコク、ヨーロッパにオフィスを構え、すべての注文に48時間以内に応じることを目指しています。
MULTIGEM CREATIONS / REAL GEMS INC.(マルチジェム・クリエーションズ/リアル・ジェムズ社)
Multigem Creations(マルチジェム・クリエーションズ)は、ニューヨークに拠点を置く Real Gems Inc. の発注を受けてカッティングを行っています。 創立25年以上の同社は、商用品質のバイーア産素材のカットから事業をスタートさせました。 1998年、同社は事業の対象を主にザンビア産の素材のカットへと移行し、エメラルドカットの経験が増えるにしたがい、中〜高品質エメラルド原石のカットへと対象を移しました。
高品質のエメラルドのカットには、より多くの時間および配慮が必要とされます。これは、カットに伴う決定内容がより高額な影響を与えるからです。これにより、月に生産されるエメラルドの量が、低品質のエメラルドをカットしていた時期の2万カラットから、現在では月あたり2千カラットに減りました。 しかし、カットした分から得られる収益は大幅に増加しています。 この収益増加は、今日の競争の激しい市場でカット後の利益率が収縮しているという事実とのバランスの中で検討されるべきものです。
Multigem Creations は、Gemfields のオークションで、ほぼ独占的にエメラルド原石を購入しています。 パーセルの入札は競争が激しいですが、一貫したグレーディングの行われたロットが得られれば、高品質で大きめなフリーサイズのエメラルドや、中〜高品質のファセットカットされたエメラルド、正確にキャリブレーションされたエメラルド、高品質のカボションやタンブルストーンを安定的に顧客に提供することができます。
ジャイプールの多くのエメラルドカット工場と同じく、Multigem Creations も伝統的な機器を生産過程に導入しています。 ジャイプールでエメラルドをカットする技術は、最先端の設備というよりも、より多くの経験と知識に基づいています。
SAMIT EMERALDS/REAL GEMS INC.(サミット・エメラルズ/リアル・ジェムズ社)
Samit Emeralds(サミット・エメラルズ)もまた、製造プロセスに伝統的な装置を組み入れています。 エメラルドは、どのような品質のものでもカットには複雑さが伴います。 ブルートパーズやシトリンといった石のように、高度な技術とコンピュータによる切断には向いていません。 色の向き、質量保持、複雑な透明度などの要因を考慮する必要があるからです。 処理は通常、カットの後に行われることから、処理による石の外観への影響を理解することも大切です。
Samit Emeralds は大量の商用品質のエメラルドをカットし、ニューヨークに拠点を置く Real Gems Inc. に供給しています。 以前はブラジル、バイーアのエメラルド鉱山から原石を大量に購入していましたが、近年では、バイーアでの生産が減り、手に入る品質も期待以下に下がってしまいました。 現在、Samit Emeralds は、主に Gemfields のオークションや他のザンビアの原産地から、エメラルド原石を購入しています。 コロンビア産の低品質な石も調達することはありますが、手に入る品質の石では色が少し明るすぎると感じています。 同社のオーナー Samit Bordia 氏の見積もりでは、ジャイプールでカットされるエメラルド原石の90%がザンビアおよびブラジル産です。 今日、Samit Emeralds がカットする原石の割合は、価値にして 90%がザンビア産、10%がバイーア(ブラジル)産です。
Samit Emeralds では、原石を購入し顧客からの注文に対応します。 キャリブレーションされたエメラルドは、米国のテレビジュエリー企業による需要が常に大量にあります。 そういった企業は、他のジャイプールの企業が高品質のカボションにカットするのを好む傾向がある一方で、内包物のある原石をより多くカットしてファセットカットされた宝石にしています。 原則として、原石に20%以上の内包物が見られれば、その石を切断し、20%未満であれば研磨して内包物を取り除きます。 原石の出発重量、予備形成された時点での重量、および最終成形後の重量について非常に詳細な記録を行うことにより、原石に対する重量損失の割合を大抵2〜3%以内の誤差で予測することができます。 今日の非常に競争の激しい市場では、この方法は原石の購入や入札でとても役に立ちます。
GREEN INTERNATIONAL(グリーン・インターナショナル)
Green International (グリーン・インターナショナル)の Ram Das Maheshwari は、Gemfields のオークションが、彼らのビジネスとジャイプールのエメラルド産業の全体的なダイナミクスを変革させてきたと感じています。 彼の推定では、Green International は製造するエメラルド原石の99%を Gemfields のオークションで購入していると言います。 また、Gemfields のオークションで、適切にグレーディングされ、一貫していて、よくまとまったエメラルド原石のロットを購入し始めて以来、在庫の宝石を売りさばける割合が 500%増したと言います。 Das Maheshwari は、今日激しい競争と減少傾向の利幅という課題に直面しているものの、オークションで提供されるよく選別されたロットを入手することにより製造のしやすさや販売率は向上しており、全体的にはプラスであるとみています。
他のエメラルドメーカーとは対照的に、Green International は、顧客の事前注文に応じた石の購入を行っていません。 同社は、支払う価格に対して最大の価値を得ることを基準に原石を購入し、質量保持と品質の最適なバランスを維持しながらカットを施しています。 その後、ジャイプールの市場で、他の地元のディーラーや海外のバイヤーたちに向けて商品を売るのです。 同社のビジネスで重要な部分を成すのは、ジュエリーメーカーへの色形等の一致する石の販売です。
Green International がブラジル産原石を主要供給源としていたとき、事業のほぼ全てはキャリブレーションされた石を扱っていました。 ザンビア産の素材を購入している今でも、キャリブレーションされた素材は多くカットしていますが、高品質のフリーサイズの石を扱う量も増えました。 同社では、熟練のカット職人たちは、弓で動く伝統的な予備成形用回転盤や、手動で操作するファセッティング用ジャム・ペグ機を使った方がカット作業がしやすいと言います。 そして、伝統的な装置を使うことで、現代的な装置を使うのに比べさらに2%質量保持が可能なほか、石の向きや最終的な品質をより上手く調整することができます。
Andrew Lucas は、カールスバッドの GIA の教育部門でフィールドジェモロジィのマネージャーを務めています。Nirupa Bhatt は、インドおよび中東の GIA でマネージングディレクターを務めています。Manoj Singhania は、インドの GIA で教育ディレクターを務めています。Kashish Sachdeva は、インドの GIA で宝石学の講師を務めています。 Dr. Tao Hsu は、カールスバッドの GIA でGems & Gemology(宝石と宝石学)の技術編集者を務めています。Pedro Padua は、カールスバッドの GIA のビデオプロデューサーです。
免責事項
GIAスタッフはリサーチおよび市場への見識を深めることを目的に、鉱山、 製造業者、 小売業者の他、 宝石およびジュエリー産業に関わる場所や企業を頻繁に訪ねております。 GIAは、訪問中に私たちを受け入れ、貴重な情報を提供してくださった皆様に感謝いたします。 これらの訪問やそれに関連する記事または出版物は、推奨として捉えたり使用したりしないでください。
執筆者全員、Real Gems Inc.、Multigem Creations、Samit Emeralds、Green International の全社に深い感謝を申し上げます。