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GIA博物館チーム、ニューヨークキャンパスを幻想の世界に


Terri Ottaway stands behind a table with several very large quartz crystal specimens are lined up on it. Some of them come up to her waist height.
ニューヨークにあるGIAのキャンパスでの最新展示の基礎となるロッククリスタルのクォーツを紹介するGIA博物館学芸員Terri Ottaway。 写真提供:McKenzie Santimer

既にすべてを見つくした人々をどのようにしたら驚嘆させることができるでしょうか?

これが2014年にMcKenzie Santimerが抱いていた疑問でした。彼女は、GIAのニューヨークキャンパスで「宝石・ジュエリー業界が関わりを持ち、感銘し、前進する」ような展示品を作るにはどうしたらよいかと案を練っていたのです。

GIAで展示・寄贈品部門長を務めるSantimerとGIA博物館の学芸員であるTerri Ottawayは、学生の注目を得るのは容易でないことに気が付いていました。 GIAのニューヨークキャンパスは、高級店が立ち並ぶ5番街の近くで、47丁目のダイヤモンド地区の中心部にあります。

このため学生はクラスに向かう途中に毎日豪華なディスプレイを見ながら歩くのです。

さらに、GIA博物館チームは、世界本部であるカリフォルニア州カールスバッドの研究所に拠点を置いているため、 この展示に関するほぼすべての計画は、ニューヨークで実際に展示する場所から3000マイル(約4800キロ)も離れた場所で行われているのです。

GIAが新たにリリースしたタイムラプスビデオでは、この2人が受賞歴のあるダイヤモンド、巨大なロッククリスタルの結晶、珍しい彫刻が施された宝石や最も有名で影響力のある時代のデザインをいくつか代表するジュエリーなど数多くの作品を、細心の注意を払って展示した様子をご覧いただけます。

「西海岸のカールスバッドの一部分が東海岸にあるということです」とSantimerは述べます。 「さもなければ見ることができない作品をニューヨークに持ってきたのです。」

McKenzie Santimer is setting up the display in the long, narrow case.
McKenzie Santimer, GIA’s manager of exhibits and in-kind gifts, says the ambient light in the student commons made it a challenge to “create drama” in the oversized, two-sided glass display case. Santimer is confident the exhibit will “wow Fifth Avenue walkers.” Photo by Terri Ottaway

デザインと、作業上の問題

完了するのに2年間も要した計画はたやすく見えますが、その舞台裏の作業は決して容易なものではありませんでした。

「華やかなものではありません」とSantimerはどの博物館の展示会においても関わる物流や細かいことを思い出しながら語ります。 作品を調達するのに多大な労力が必要とされるだけでなく、レイアウトを計画してテープを貼り付けたり、ラベルを書いたり、配送や設置も考慮しなくてはいけません。 また、配送の途中や目的地に到着した際に重要な作品を保護する保険契約を結ぶ必要もあります。

カールスバッドでは、SantimerとOttawayはサポートしてくれるスタッフを使い、テーマのある展示に適している大広間で通常の勤務時間中に作業を進めることができます。 しかしニューヨークでは、予備のスタッフは限られており、周囲の照明や両面ガラスの展示ケースといった制約からも、デザイン上いつも通りとはいかない課題が生まれました。 このためほぼすべての作業において、単により多くの調整が必要とされました。

一方、GIAのニューヨークキャンパスでは、楽しいこともいくつかありました。

GIAは、2年半前に建築されたInternational Gem Tower(インターナショナル・ジェム・タワー)で3フロアを使っています。 8階には教育部門があり、150人以上ものニューヨークの学生、スタッフおよびVIP訪問者が特別に利用できるようになっています。 教室、図書室、ロッカールームや学生ラウンジがあり、Santimerによるとすべてが「モダンな禅」 スタイルでデザインされています。

「学生がここで過ごすのは特別な経験ですし、すぐ外の騒がしく活気に満ちた街の中にある安らぎの場所と言えるでしょう」と彼女は言います。

展示ケースは誰もが集まる場所にあります。幅20フィート(約6メートル)、奥行16インチ(約41センチ)、高さ30インチ(約76センチ)のケースが、片側を廊下、もう片側を椅子を並べて学生ラウンジに分けるように置かれています。

A view of the dramatic long, narrow exhibit case filled with GIA Museum pieces. The case is a feature wall in the student commons area filled with tables and chairs.
McKenzie Santimer describes the student commons at GIA as having a “modern zen” aesthetic. It’s “almost a sanctuary” in the city, she says. Photo by McKenzie Santimer

「学生は、展示ケースの前のカウンターに座り、ノートパソコンの電源を差し込み、でーヒーを飲めます」とSantimerは述べます。 「これは美しいのですが、両側から見えるのでどこから見ても見栄えを良くするには学芸員とデザイナーにとってかなり難しいのです。 さらに、周囲の照明のため、ドラマを作ることが非常に困難なのです。」

その場所では2つめとなるこの展示ケースは、8階の廊下に並んでいる壁の小さい窪みにある教育に焦点を当てた15点の既存の展示品を引き立てています。

Museum Exhibit Installation
New York Campus

GIA博物館からの宝石の宝庫

正式なテーマはありませんでしたが、SantimerとOttawayは、GIAの強みを生かし、宝石学に焦点を絞ることに決めました。

まず最初に、2人は以前の展示品から珪化した木や竹を取り出し、基礎となる783カラットのロッククリスタルとスモーキークォーツを代わりに入れました。 彼女たちは、2014年のツーソンの宝石・鉱物ショーでアーカンソー州ホットスプリングスにあるRon Coleman Mining Company(ロン・コールマン採鉱会社)から、最大のものの重量が75,000グラムあり、寸法12×9×7.5インチ(約30x23x19センチ)のアメリカ産の鉱物を取得しました。

「クォーツは私たちのキャンバスであり、これを購入することは絶好の機会でした」とSantimerは述べます。 「これほど大きい展示ケースを満たすのに十分大きな鉱物は少ないですし、両側が美しい鉱物はあまりありません。 クォーツ結晶は大きく成長し、誰でも認識できる鉱物だと私たちは分かっていました。 Terriと私は展示ケースで使用できるものをどこに行っても探していたので、ツーソンでこれらの結晶を見たときに、すぐに「これなら完璧でしょう!」と思ったのです。」

次に、SantimerとOttawayは、GIAコレクションからの29品のジュエリー、オブジェ、裸石を含む、44作品を組み合わせてクォーツを飾りました。

「私たちはクォーツに対して何が目立つか自問しました」とSantimerは述べます。 「そこで、異なる時代、色やテーマに基づいて、より小さな場面やモチーフに分けていきました。

私たちは、合計88カラットのダイヤモンドジュエリーと、アールデコや現代もの、ビクトリア朝の作品などをいくつか、ならびにスターサファイアのような珍しい彫刻が施された宝石を使用しました。 デビアスの賞を受賞した作品や牛骨ブローチのような有機素材の作品もあります。」  

また、ブラジルのデザイナーによる前衛的な宝石、南海真珠のネックレス、ひとつがビクトリア朝様式のジェットビーズで作られてもうひとつは15Kゴールドでできた蛇のブレスレットなども飾られています。  

これらのクォーツは展示全体の基礎としての機能に加えて、クォーツのサイクル全体を表しています。数々のロッククリスタルから、202.80グラムの剣型のレターオープナーや、「The Cyclops(ザ・サイクロプス)」と呼ばれるパビリオンがラウンドブリリアントカットでクラウンがステップカットの8,783.50カラットのフローレスで無色の天然クォーツに至るまでが、飾られています。

A crescent-shaped bowl with a flat bottom trimmed in gold holds rough diamond gravel and a gold and diamond fish.

この公共の場は平日は使用されているため、SantimerとOttawayは何回も週末に作業をし、使用されていない教室に作業場を設置しました。 この展示ケースには片側にしかドアがないため、設置する際には窮屈な場所や狭い入口に工夫して体をねじ込める必要がありました。

タイムラプスビデオでご覧いただけるように、彼女たちの作業の範囲は多大なものでしたが、ユニークな展示を生み出しました。

「私たちは非常に期待していたので、この展示を大変誇りに思っています」と、2〜3年後にどのようにしてレベルアップするかをすでに考えているSantimerは説明します。 「この展示品はニューヨークにピッタリな作品であると思いますし、5番街を歩いている方でも驚かせることができたと確信しています。」

寄稿者Jaime KautskyはGIAダイヤモンドグラジュエイト、またGIAアクレディテッドジュエリープロフェッショナルで、The Loupe(ザ・ルーペ)誌の共同編集者を務めました。