新型コロナウイルスにより中国の需要は減少か、ダイヤモンド採鉱会社は市場好転を見込む
2月 10, 2020
新型コロナウイルスが中国全土に広がるにつれて、中国の人通りがない商店街やショッピング モールの画像がニュースで取り上げられています。新型コロナウイルスが流行し感染が拡大する恐れがあるため、Hong Kong Gem and Jewellery Show(香港ジェム アンド ジュエリー ショー)の運営会社は、このイベントを3月上旬から5月中旬に延期しました。さらに香港政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、中国本土と香港を結ぶ出入境ポイント計13カ所のうち10カ所を封鎖し、多くの航空路線を運休させています。
この新型コロナウイルス感染拡大は、中国本土と香港の経済に大きなダメージを与える可能性が高く、春節明けの株式市場は8%も下落しました。中国本土の観光業は、香港の小売業の約70%を占めています。ジュエリーの販売会社であるChow Tai Fook(周大福)およびPandora(パンドラ)などの小売業者は、全国の店舗を閉鎖しています。
小売業者やサプライヤーから特定のデータを取得するのは時期尚早ですが、金取引の業者によると、通常は春節により売上が伸びるはずの1月末の2週間における中国からの需要は「記録的に低いレベル」に達したということです。中国本土では、人々が自宅にとどまるよう、政府が春節(旧正月)の休日を延長しました。このため、外出する人はいなくなり、首都の北京でさえも閑散とした光景となりました。この危機を乗り越えるために、中国政府は、銀行が貸し出せる資金量として金融市場に約220億ドル(約2兆4000億円)を供給しました。
World Health Organization(世界保健機関)は、新型コロナウイルスの大流行は初期段階に過ぎず、国内で感染者が出ている地域以外にも拡大すると予測しています。経済学者は、この新型コロナウイルスの流行は世界経済に多大な影響を与える可能性があると述べています。中国は、主要な消費者市場である他に、世界のサプライ チェーンにおいて不可欠な役割も果たしており、長期にわたる混乱は世界中の多くの市場、特に電子機器の市場に悪影響を及ぼす可能性があり、世界経済の成長が数パーセント低迷する可能性があります。韓国の自動車メーカー、Hyundai(現代自動車)は、中国からの主要部品を使い果たしたため、工場を閉鎖すると発表しました。
ダイヤモンド原石
大手ダイヤモンド生産企業は、価格の下落および銀行与信枠の削減につながった過剰供給による原石市場の危機が一段落したと判断しています。与信枠が制限され、キャッシュ フローに一貫性がないダイヤモンドのカット企業の中には、あまり確信が持てない企業もいますが、現時点ではDe Beers(デビアス)やAlrosa(アルロサ)などがダイヤモンドの供給を増加し始めました。
デビアスの1月のサイクルは5億4,500万ドル(約588.6億円)となり、2019年の初回販売よりも9%上昇し、9ヶ月ぶりの高水準となりました。昨年に価格と需要が落ち込んだ原因となった過剰供給が緩和されたことを確信している同社の姿勢が反映されています。アルロサは、1月17~21日の売上結果をまだ発表していませんが、ダイヤモンド市場の需給が「均衡」に近づいているはずだ、と述べました。
デビアスでCEOを務めるBruce Cleaverは、クライアントが再入荷する必要があったため、第4四半期のホリデー シーズンの後にダイヤモンド原石の需要が増加したと述べました。デビアスの売上高は昨年25%減少しました。
しかし、デビアスが以前のようにビジネスを行う予定は明らかにありません。デビアスは年末にクライアントのリストを一新する予定であると広く報じられています。詳細はほとんど発表されていませんが、製造業者ではなく大規模な工場を持たないディーラーに対してより多くの商品が流出した、1980年代の危機の後に採用された「より少なく、より強い手」と呼ばれる政策を2020年のために改訂した戦略であると予測されています。
デビアスが企業に対して「実証された需要」と呼ばれるクライアントになるために設置する基準では、企業が契約期間中に各サイクルにおいて契約した数量の原石を購入することを必要条件とします。しかし、カットの採算がとれる見込みがつかなかったため、多くのクライアントは昨年購入を延期したり、商品をデビアスに売り戻すことさえも行いました。
確かに、2019年の危機は、過剰在庫のため起きた最初の危機ではなく、2015年、そして世界経済そのものが危機にあった2009年~2010年にも起こりました。それ以前にも、多くのアナリストは、ダイヤモンドの製造能力が20%以上過剰であると考えていましたが、銀行が与信枠を供与していたため、製造業者は余分な石を在庫として保管することができました。
世界最大の生産量を誇るアルロサは、昨年、過剰な在庫を抱えるクライアントにダイヤモンドを販売する代わりに、ダイヤモンドを在庫に残しました。アルロサが最近発表した決算報告書によると、原石の在庫は33%増加しました。
同社の売上高は、前年比26%減の32億7,000万ドル(約3532億円)、販売量では12.4%減(3,340万カラット)となりました。在庫は500万カラット増加し、2019年の販売量の3分の2にあたる2,260万カラットとなりました。アルロサの多大な在庫は、皮肉なことに、経済が低迷している時代に商品を在庫として保管することで、デビアスがかつて担っていた「市場の管理人」という役割をアルロサが果たしていることを示唆しています。
第3位の生産者であるRio Tinto(リオ ティント社)は、ダイアヴィク(カナダ)とアーガイル(オーストラリア)の両方における生産を低級のダイヤモンドに転向したため、ダイヤモンドの生産量は昨年8%減少の1,700万カラットになったと発表しました。これは過剰生産を回避する戦略としてよく使用されます。
リオ ティント社のアーガイル鉱山は、数百カラットのファンシー カラー ピンク ダイヤモンドを毎年生産することで知られていますが、この鉱山から採鉱されるおよそ1400万カラットのほとんどは、小さい低品質の石であるため、価格に対してかなりの下落圧力を受けています。
しかし、アーガイル鉱山が今年末に閉鎖され、ダイアヴィク鉱山が2023年に閉鎖されるにもかかわらず、リオ ティント社はその後に引き続きダイヤモンド事業に取り組む意向があるのは朗報です。リオティント社は、より価値の高いダイヤモンドを生産しているカナダのOrion South project(オリオン サウス プロジェクト)の60%の株式を取得することを希望しています。この鉱床は、タイプIIaの無色のダイヤモンドの重要な産地となる可能性があります。
ゴールド ジュエリー
World Gold Council(ワールド ゴールド カウンシル)によると、通貨が下落し、経済成長が低迷しているため、ゴールド ジュエリーの需要は、2019年の最終四半期に過去10年間で最も低い水準に落ち込みました。
同団体は、インドの需要が2018年の同時期と比較して、今年の最終四半期に17%減少したと報告しました。また、中国の需要も、米国との貿易戦争や価格上昇が多大な被害を及ぼしたため、10%減少しました。さらに、若い消費者は、単にゴールドでできたシンプルな宝飾品よりも、金属の使用量がはるかに少ないファッション指向の高いデザインの宝飾品を好む傾向がある、と同団体は指摘しました。
米国では、金の需要は2%上昇しましたが、インドと中国における減少を相殺するには十分ではありませんでした。
電子機器、金融、医療、投資など、すべての産業からの金の世界的な需要は、年間1%減少しました。
Russell Shorは、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。