カメオ: ジュエリー愛好家のための時を超えたミニチュア彫刻
6月 23, 2017

『Cameos Old and New(古いカメオと新しいカメオ)』の著者であり宝飾品専門家でもある Anna M. Millerによると、アレキサンダー大王は紀元前3世紀に自分自身の肖像を神格化して彫刻した石を製作するよう依頼しました。これが、エジプトで初めて作られた三次元の石の彫刻、カメオの誕生です。そして、これはおそらく世界初の自撮り(セルフィー)でしょう!
それ以来、支配者や貴族または歴史的な出来事の場面を映し出すカメオの肖像画は貴重なものとして考えられています。アレキサンダー大王の肖像を彫刻したカメオが登場するまで、彫刻はインタリオと呼ばれる沈み彫りの技法を用いて行われ、識別する紋章として使用されました。紋章にはたいてい、ライオンまたはクマなどの力強い動物やギリシャやローマの神話の人物が描かれていました。

カメオは、背景部分からの盛り上がりがあまりないローレリーフ(浅浮き彫り)または背景部分から高く彫り上げられているハイレリーフ(高浮き彫り)に分かれます。カメオを評価する際に考慮される品質要因として、使用された素材の種類、彫刻のセッティング、状態やディテール、テーマ、芸術家の署名が挙げられます。
貝殻は、ルネサンス期にフランスとイタリアのカメオで人気のある素材になりました。コーネリアンとして知られている学名Cassis rufa(マンボウガイ)の貝殻がカメオを製作するのに通常使用され、非常に明るい橙色から深みのある茶色がかった橙色まで色がさまざまです。一般的にクチグロトウカムリまたはサードニックスシェルとして知られている学名Cassis madagascariensisの貝殻は、厚みがあり暗褐色をしています。これは最大の貝殻であり、彫刻すると縞模様の瑪瑙に似ています。
カーネリアン (有機質の貝殻であるコーネリアンとは異なる無機質の岩石)および瑪瑙の広大な鉱床が16世紀および17世紀にドイツのイーダー・オーバーシュタイン地域で発見され、カメオは改めて注目を浴びるようになりました。当時、オニキス、サードニックス、カーネリアン、ジャスパー、クォーツが、素材としてよく使用されていました。また、これらは硬度が比較的高く色帯があるため彫刻に最適であると考えられています。
カメオは、ビクトリア女王が宝石を好み、カメオを気に入っていたため、イギリスとヨーロッパでビクトリア朝時代に人気がありました。華美な装飾品を身に着けた女性の横顔、若々しい乙女、宗教的な象徴、神話に登場する神や女神の他、王族や政治家の肖像画が引き続き人気のあるテーマとなっていました。サファイア、ガーネット、ジェード、オパール、サンゴ、クォーツなどの宝石素材は、ビクトリア朝時代にカメオの彫刻の素材として人気がありました。
ビクトリア女王は、アルバート公子が1861年に他界した際に喪に服しましたが、ジュエリーを身に着けるという意志は揺るぎませんでした。彼女は石炭が化石化したジェットで作られたジュエリーをよく選びました。また、溶岩に彫り出したラーヴァカメオも喪に服している際の宝石としてビクトリア朝時代に人気を集めました。進取の気性に富んだ職人は、ポンペイの遺跡から出土した溶岩がカメオ彫刻に適した素材であると気付いたのです。これらは、地位を重視するビクトリア朝時代の権力者がヨーロッパを観光したことを誇示するための貴重なお土産として人気を博していました。ジェットと溶岩は、カメオを評価する際に品質要因となる高浮き彫りに適しており、収集価値を高めます。

カメオはビクトリア女王が他界した後も引き続き人気を集め、職人はトルコ石、ルビー、ラピスラズリ、アクアマリン、ペリドット、トパーズなどを彫刻の素材として使用し始めました。
19世紀および20世紀には、イタリア人の彫刻家であるTommaso Saulini、彼の息子Luigi Saulini、Giovanni Notoが自分の作品に署名することで有名になりました。英国王室はTomasso Sauliniにヴィクトリア女王とアルバート公子の肖像画を彫刻するよう依頼し、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で彼の作品が展示されています。イタリア共和国は、イギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚式のための作品など、公式行事で使用される贈答品を製作するようNotoに依頼しました。カメオ彫刻におけるこれらの巨匠が製作したほとんどの作品は、博物館や個人コレクションで所蔵されています。
カメオに潜む豊かな歴史および伝承が、歴史、神話や宝石をこよなく愛する方を魅惑的な収集の世界へ案内します。
Sharon Bohannonは、写真の研究とカタログ化、そして記録を行うメディア編集者であり、GIAよりGGおよびAJPを取得しました。Richard T. Liddicoat 宝石学図書館情報センターに勤務しています。