2018年度GIAシンポジウム: 適応力のある人が未来の鍵を握る
10月 22, 2018
ダイヤモンド・宝石業界は、消費者の好みやテクノロジーの変化に迅速に適応できる方やビジネスにとって将来堅調となるでしょう。これは、カリフォルニア州カールズバッドで10月7日~9日に開催された第6回GIAシンポジウムで講演会を行った業界人が約800名の出席者に送ったメッセージでした。
このイベントでは、宝石学の研究プログラムに出席するために世界各地の科学者や専門家が集結しました。また、Harvard Business School(ハーバード・ビジネス・スクール、HBS)の教授陣によるビジネスプログラムも行われ、破壊的革新や変化を遂げる消費者の行動にビジネスが対応する方法に焦点を当てました。
シンポジウムの最後を飾った「Futurescape Forum(フューチャースケープ・フォーラム)」のパネルディスカッシンでは、ハーバード・ビジネス・スクールでエグゼクティブ開発部門マネージングディレクターを務めるDavid Ager博士が進行役を務め、宝飾業界で活躍する6名、De Beers Group(デビアスグループ)の最高経営責任者(CEO)のBruce Cleaver、Signet Jewelers(シグネット・ジュエラー)のCEOのGina Drosos、Blue Nile(ブルーナイル)のCEOのJason Goldberger、Diamond Cellar Holdings(ダイヤモンドセラーホールディングス)のCEOのAndy Johnson、Christie’s(クリスティーズ)の国際ジュエリー部門長のRahul Kadakia、Chow Tai Fook(周大福)のマネージングディレクターのKent Wongが参加しました。
ビジネスプログラムおよび「フューチャースケープ・フォーラム」は両方とも、NYU Stern School of Business(ニューヨーク大学 スターン・スクール・オブ・ビジネス)のScott Gallowayが業界の将来に対する予測を紹介するビデオで始まり、以下の重要な点を中心に議論が繰り広げられました。
- 小売業と取引においてテクノロジーがもたらす変化、Amazon(アマゾン)などの巨大企業が投げかける課題や消費者に直接販売する製造業者の増加など、従来の小売業者のチャネルを介さないバリューチェーン全体の継続的な統合
- 進化を遂げる消費者の好みと願望
- 急速に変化する労働市場にアピールする必要性
- ラボで製造されたダイヤモンドが市場およびラボでの鑑別の両方にもたらす混乱
- 宝石の産出地および持続可能な生産
技術的な課題
小売業者は販売チャネルだけでなくテクノロジーにも適応する必要がありますが、それぞれの顧客を特定するのに役立つ方法で行われるべきであると、ほとんどの出席者が同意しました。
HBSで教授を務めるKrishna Palepu博士が進行役を担当した討論会では、参加者はAmazonで商品を販売することに関わる利点とリスクのケーススタディに耳を傾けました。アマゾンは、製造業者や小売業者に対して新たな販売プラットフォームを提供できますが、これらの業者には価格を下げなくてはいけないというプレッシャーが常にあります。また、アマゾンがサプライヤーから製品を調達し、その製品をより安い価格で販売するリスクがあるという重大な問題を提起した一例もありました。
「フューチャースケープ・フォーラム」では、Drososが、顧客の買い物はオンラインで始まり店頭で終わり、常にチャネルを横断するため、オムニチャネルを導入した小売業が必要とされていると説明しました。オンラインチャネルは、顧客がオンラインで予約することを可能にするため店頭での経験を向上させ、そのように予約したサービスや商品の90%が販売につながると彼女は指摘しました。
Wongは、販売量による周大福の売上げのうち15%がオンラインで行われますが、これらの商品は主に小さなゴールド製品やハローキティやディズニーのキャラクターなどのチャームであると述べました。高級な商品に関しては、クリスティ―ズのオークションの90%は依然として従来の入札によって行われていますが、それ以外は主に1万ドル以下の作品を購入する若いクライアントがオンラインで入札していると、Kadakiaは説明しました。
「こうやって若い顧客を惹きつけています」と彼は述べました。
消費者への適応
新しいメッセージを伝える新たな方法で消費者とつながることが、今日必要とされています。すべての人々にすべてのことをしようとすると、すべてが平均的、中くらいとなり、これは消費者が望むことではありません。さらに、ミレニアル世代は多様な経験を大切にし、長い間ひとつの企業で働きたくないため、転職することが多いこの世代に企業は適応する必要があります。
HBSでエグゼクティブ開発部門マネージングディレクターを務めるDavid Ager博士が指導を行ったビジネスプログラムは、日本製クオーツ腕時計との競争や新しいアイデアが欠けているなど、問題を抱えていた業界を復活させた、スイス製腕時計会社のエグゼクティブ、Jean-Claude Biverのケースを分析しました。
Biverは、スイス製腕時計に対する彼の構想をアートおよび職人技として、鑑識眼を重視した消費者に訴えることに成功しました。その結果、この業界はほとんど自力で復活しました。高級商品に注力することで特定の顧客が取り残されるというリスクがありましたが、Biverは彼の製品の優れた性能に対する情熱を消費者に伝えたかったとビデオで述べました。
Palepuが担当した、もう一つのハーバードの講演会では、Apple(アップル)は、消費者がテクノロジーを好むようになる戦略を立て、同社を高級ブランドとして考えさせることにより成功を収めたと説明しました。
「顧客が望んでいた他社との違いを提供したのです」とPalepuは述べました。
変化を遂げる人材が、「フューチャースケープ・フォーラム」の重要な議論のトピックとなりました。組織は閉鎖的なアプローチに固執するべきでなく、多様な経験を持つ人々が新しい思考をもたらす、とGoldbergerは述べました。今、ハイテク産業で働いている人は2〜3年ごとに転職するので、彼らを完全に失うか、それとも彼らがここにいる間に才能を活用するかという選択に迫られています、とも言いました。
Cleaverは、ダイヤモンド業界は従来多様化していなかったので、これから多様化する機会が十分あると指摘しました。その一方、周大福はデザイナーが作品を作成および販売できるプラットフォームを提供することで才能のあるデザイナーを惹きつけているとWongは述べました。
「有能な人はそういう自由が必要です」と彼は指摘しました。
Johnsonは、誰もが転職するのを望んでいるというわけではありませんが、企業はフルタイムで働けない人に適応しなくてはいけないと付け加えました。
天然およびラボで製造された宝石
宝石学研究プログラムと「フューチャースケープ・フォーラム」では、ラボで製造された宝石が議論で注目を浴びました。パネルディスカッションの出席者は、合成ダイヤモンドは市場価値があるものの、人生における大切な事柄を記念するには依然として天然ダイヤモンドが選ばれるであろう、と同意しました。
デビアスの技術部門のDavid Fisher博士は、合成ダイヤモンドを検出するために進化を遂げる技術に関して、「合成ダイヤモンドの検出技術への鍵は、合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドの違いを基本的に理解することです」と指摘しました。GIA のSally Eaton Magana博士は、GIAのラボで見られるCVD法による合成石の概要を発表しました。
また、講演者は合成石を検出する方法と課題についても詳しく説明しました。
「フューチャースケープ・フォーラム」では、人工ダイヤモンド市場に焦点を当てて議論が繰り広げられました。
Kadakiaは、合成ダイヤモンドは時が経つにつれて価値が減ってしまう一方、天然ダイヤモンドは常に価値があるため、消費者は依然として天然ダイヤモンドを選ぶと、自信を持って述べました。
Goldbergerは、婚約指輪を購入する人々は、今のところ天然ダイヤモンドを常に好んでいますが、将来必ずしもそうなるとは限らないと指摘しました。その例として、1990年代に消費者は書店で本を閲覧するのを好むと言ったものの、その代わりにオンラインで本を購入し始めたことを挙げました。
Cleaverは、合成ダイヤモンドが市場を占めるのは、楽しいファッションジュエリーに限られると述べました。
宝石の調達および生産
カナダのUniversity of Alberta(アルバータ大学)の教授、D. Graham Pearson博士は、ダイヤモンドが形成される方法を地温分析を通して理解することにおける進歩について説明しました。また、Carnegie Institution for Science(カーネギー研究所)のSteven B. Shirey博士は、石の中にある鉱物インクルージョンを研究することでダイヤモンドが何年前に形成されたか判断する方法を紹介しました。
また、持続可能な宝石の生産および取引がこのシンポジウムで重要なトピックとなりました。
University of Delaware(デラウェア大学)のSaleem Ali博士は、宝石には語られるべき素敵な物語があると述べました。宝石は、代々受け継がれるものであったり、豊かな国から貧しい国へ富を移動させる重要な資源でもあります。また、宝石の起源は、消費者に保証の基盤を提供する価値を定めることがよくあります。
「フューチャースケープ・フォーラム」では、Cleaverが、かつて世界で最も貧しかった国の一つ、ボツワナが経済的および政治的に成功を収めていることを取り上げました。良好な統治に加えて、ダイヤモンドの収益がボツワナをアフリカで最も繁栄した国の1つに変えた、と述べました。
Aliの意見に同意し、「人々が仕事を見つけたり、国が発展するのにダイヤモンドが役立つというのは普段あまり聞かない良い話です」と述べました。
Drososは、顧客がダイヤモンドの起源を知ることに興味を抱いているため、シグネット・ジュエラーは調達に関する同社の社会政策に全従業員が精通するよう取り組んでいると述べました。
シンポジウムで最後に賛辞を述べた、GIA 社長兼CEOのSusan Jacquesは、私たちの業界の未来は信じられないほど明るく、混乱は宝石やジュエリーだけに起きるわけではなく、これらの課題は絶好の機会となります、と述べました。
革新を受け入れ、変化を活かしましょう。変化に適応できる人たちが、この業界で生き残って成功できるのですから、と続けました。
シンポジウムの議事録は、GIA の季刊誌『Gems & Gemology(宝石と宝石学)』の2018年秋号に掲載されます。なお、こちらは11月にGIA.eduにて無料でご覧いただけます。
Russell Shorは、GIA カールスバッドのシニア業界アナリストです。