炭素同位体の研究がダイヤモンドの成長史を明らかにする
3月 26, 2014
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今日、私たちはDTMのイオンマイクロプローブラボに来ています。 Wang博士は、彼の後ろでブーンという音をたてる複雑な機械を紹介してくれます。 二次イオン質量分析計(SIMS)と呼ばれる機械は、私たちが立っている大きな部屋の大部分を占めています。
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地磁気部門の複雑なイオンマイクロプローブの操作と天然ダイヤモンドの研究の関連性を説明するJianhua Wang博士。 測定器の真空チャンバー内に配置する準備ができている試料ホルダーを手に持っている。 写真:Duncan Pay/GIA、提供:Carnegie Institution of Washington(ワシントン・カーネギー研究所)
イオンマイクロプローブについて
Wang博士は、イオンプローブの「先端部」のことを、コンパクトで複雑なシリンダとパイプが集まったもので、一部解体されたジェットタービンに似ていると説明しています。 このエリアには、試料を照射するイオンガンと、それを保持する真空チャンバーが含まれます。 この先は、部屋の壁中を回って、標準的な冷蔵庫サイズの巨大磁石を介し、検出器に至る長い「フライトチューブ」です。 それは非常に印象的な機器です。
イオンマイクロプローブ
Jianhua Wang博士が地磁気部門のイオンマイクロプローブを紹介する様子をご覧ください。
イオンマイクロプローブについて
Wang博士はイオンマイクロプローブの概要を簡単に説明してくれます。 彼によると、この機器にはイオンビームを発生させる一次イオンガンが搭載されています。 イオンは正または負の電荷を有する原子です。 この場合では、稀少な金属セシウム(133Cs)の陽イオンを使用しています。一次イオンビームが1組の電磁レンズを通過します。 電磁レンズを15マイクロメートル(0.0015 cm)の直径に焦点を当て、機器の高真空チャンバーの試料に向かってイオンビームを照射します。 セシウムイオンビームからの影響に反応して、試料がイオン流を放出します。
別の1組の電磁レンズは、試料から二次イオンビームに放出されたイオンに焦点を当てます。 この機能により、Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer(二次イオン質量分析計)の名前が付けられました。
ビームは、方向付けされると、試料によって生成されたイオンを特定するために質量分析計に送られます。 質量分析計は、電荷と質量で二次イオンを異なる同位体に分離します。 通常、ダイヤモンドの場合、Wang博士はダイヤモンド中の主要な微量元素である炭素または窒素を測定します。
質量分析計の動作は、同じ電磁場を条件とした場合に、同じ質量と電荷の2つのイオンが真空状態で同じ経路を移動するという原理に基づいています。 異なる質量電荷比を有するイオンは、移動方向がいくらか偏向されます。 質量分析計は、イオンを異なる質量に分離し、一連の検出器でそれらを数えます。 コンピュータ画面にその結果が表示されます。
このマシンでは、異なる質量の同位体を検出するために、磁場を変化させる必要があることを、Wang博士は説明します。「このマシンを使用して、炭素同位体および窒素同位体を測定したい場合は、2つの異なるセッションで行う必要があります。なぜなら、窒素はダイヤモンドの微量要素で、炭素は主要素だからです。」
「だから多くの炭素シグナルがあります」と、Wang博士は言います。 「あるセッションで炭素同位体を測定し、別のセッションで窒素同位体と窒素濃度を測定します。」
炭素同位体の研究がダイヤモンドの地史を照らし出す
Wang博士のすべての研究の中で、私たちが最も興味を持ったトピックは、地球の炭素循環内におけるダイヤモンドの位置と、ダイヤモンド結晶を構成する炭素の起源です。Wang博士の研究は、Shirey博士の研究を補完します。 Shirey博士は小さな硫化物系の内包物の年代測定に焦点を当ています。Wang博士は、切断して内包物を復元してしまう前の、Shirey博士が作り出す研磨されたダイヤモンド基板に含まれる炭素と窒素の同位体を研究しています。
過去10年間にわたり、Wang博士のような科学者たちが、ダイヤモンド中の炭素の起源の解明に大きな進歩を遂げてきました。 炭素は2つの安定同位体12Cと13Cとして発生します。(化学元素の同位体は、要素として単に同じ原子番号を持つ原子ですが、その核内の中性子の数が異なることから、わずかに質量が異なります。)地球の表面では、12Cは、ほぼ100倍多く存在します(1.1%に対し98.9%)。
天然ダイヤモンドに含まれる炭素の炭素源は、実際には2つしかありません。 それは、科学者が「原始」と呼ぶ、地球のマントルを離れたことのない炭素を由来としています。またはマントルから放出され、有機物(バクテリアや海草類など)に組み込まれ、あるいはその後に形成されるグラファイトのような炭素含有鉱物や、石灰岩や大理石などの炭素に富む岩石で「再生された」炭素です。 これらの素材は、プレートの沈み込みによって地球のマントルに戻され、ダイヤモンドを形成する炭素を放出しています。
大まかに言えば、科学者たちは、彼らの地質学的起源を基にして天然ダイヤモンドを2つの広いカテゴリーに分類しています。 マントルを炭素資源をとするものは、かんらん岩(P型)であり、プレートの沈み込みで再生される炭素を含むものがエクロジャイト(E型)です。
地球の表面で再生されていた炭素は12Cの13Cの比率がはるかに高い傾向があります。それは生物系の燃料となる生化学的反応では、一般的に炭素の軽い同位体が好まれるためです。 ダイヤモンドは、マントル炭素または再生炭素のどちらに由来するかによって、その地史が反映され比率が非常に異なることがあります。 Dr. Wang博士のイオンプローブは、ダイヤモンド中の異なる炭素同位体数を数えることできるため、13Cの12Cに対する比率を測定することができます。
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炭素同位体組成はダイヤモンドの地史について多くを語る。 この図は主なダイヤモンドタイプの違いを示す。 δ13Cは、参照基準に対して測定された13C/12Cの比率で、この基準の偏差は0.1%である。 負のスケールと、エクロジャイトダイヤモンドがかんらん岩ダイヤモンドよりもはるかに低いδ13C値にまで分布している点に注意すること;n =分析数。 マントル炭素に由来するダイヤモンド(P型、一番上のグラフ)は、比較的に制限された値域である。 プレートの沈み込みによって再生される炭素に由来するもの(E型、上から2番目のグラフ)は、両方ともにオーバーラップするが、はるかに広い範囲である傾向がある。 「Cartigny (2005年号)」から抜粋。詳しくは2013年冬号『Gems & Gemology』(宝石と宝石学)の206ページ、図 21を参照。
かんらん岩のダイヤモンドは、–10から–2 δ13Cの炭素同位体組成の範囲が狭い(デルタ表記法の場合、δ13C、13C/12Cを標準と照合して‰で表現する場合)ことを示し、主要マントル範囲の-8から-2に95%以上が該当します。エクロジャイトダイヤモンドの多くは主なマントル範囲と重複するにもかかわらず、ずっと広いδ13C範囲(-42から+3)に分布しています。
ダイヤモンド中の炭素
この動画では、Wang博士は彼の炭素同位体の研究の重要性と、その結果がどのように天然ダイヤモンドの起源の理解に繋がるかを説明している。
ダイヤモンド中の炭素同位体を研究することで何がわかるのですか?Wang博士は「地球の沈み込み帯の仕組みの最も深い部分がわかります。」と答えます。彼は、複雑な成長史を持つ結晶からカットされたダイヤモンドプレートの陰極ルミネッセンス(CL)の印刷画像を見せてくれます。 印刷画像には、僅か数ミリメートルの幅のダイヤモンドプレートの拡大画像が載っています。
Wang博士は、色によってプレート全体にある窒素の濃度は異なり、通常はカソドルルミネッセンスなしで見ることができないと説明します。 「ダイヤモンドの複数の成長パターンや窒素量の変化を見ることができます。また、イオンプローブを使用して異なる領域の炭素同位体を測定することができます。」
イオンプローブでサンプリングした各点は、幅15マイクロメートル(0.0015 cm)の小さなスポットとして表示されます。 各スポットの横にある数字は、同位体の濃度を表しています。 Wang博士はサンプル点の軌跡を指して「この情報から炭素同位体の変化が分かります。」と言います。
「変化が多い場合は、流体中に異なる炭素の起源があり、そこからダイヤモンドが成長したことが推測できます。 この場合、すべての炭素がマントルに含まれています。つまりマントルの炭素同位体の原始構成に非常に近ということです。」
一方でWang博士は、次のように教えてくれます。「例えば、-24 δ13Cなどの非常に負の炭素同位体組成が見られるとき、それは有機起源の炭素であることがほとんどです。そのため、それらは地表から生じた可能性があります。」 これは地表からマントル深部に至る海洋地殻の沈み込み帯である可能性を示しています。
「この技術によってダイヤモンド中の炭素の起源が明らかになります。」とWang博士は続けます。 「それが地表を起源とするのか、それとも深いマントルを起源とするのかが分かります。」
カーネギー研究所の地磁気部門のダイヤモンド関連研究で使用されている主な分析機器の一つ。
ブラジルの超深層ダイヤモンド
Wang博士は、2012年に実施した最近の研究論文に言及します。それは英国のブリストル大学のダイヤモンド研究グループと共同で、ブラジル産の特殊なダイヤモンドを分析したものです。 「有機起源に非常に強力な特性を持つダイヤモンドを見つけました。またその内包物はマントルの非常に深い部分(深さ800キロほど)で形成されていることが分かりました。」「これらの内包物によって、(炭素)起源は地表であるが、ダイヤモンドの形成場所はマントル深部であることが推測できます。 つまり、沈み込み帯がマントル深部まで進行していたということです。
「そのダイヤモンドによって、地表で生じた炭素の歴史や、どのようにマントルに到達してダイヤモンドが形成されたが分かります。そしてキンバーライトがダイヤモンドを地表に運んだことで、私たちはダイヤモンドを入手し、ラボで測定できるのです。」
多くの研究と同様に、この研究も同僚たちと一緒に行いました。そして今回はShirey博士とHauri博士との共同研究でした。 「Steveはダイヤモンド中の硫化物を測定してダイヤモンドの内包物の形成時期を調べました。Erikは水分を測定してマントル深部の水分含有量を調べました。」と彼は言います。 「この研究を達成するのは他者との協力です。」
カーネギーのイオンマイクロプローブの機能
Wang博士は、このタイプの機器は主に半導体産業でシリコンウエハー中の異なる微量元素のインプラントの測定に使用されていることを説明します。
ユニークな機器
Wang博士は、地磁気部門のイオンマイクロプローブの機能の一部を概説し、その交換に非常に高い費用がかかる理由を説明します。
「地質学や宇宙科学では、イオンマイクロプローブを使用して、火星隕石中や月の石の水の測定など、鉱物や岩石中の微量元素分析を行います。」他にはDTM宇宙科学者たちが、彗星の尾から盛んに採取される粒子や、絶えず宇宙から地球に降り注いでいる惑星間塵粒子、かなた太陽系外の星で作られた耐火粒を含む隕石の残留物、有機成分が含まれている火星からの隕石などを分析するために使用します。最先端の精度を持つ複雑で汎用性の高い機器を維持するには、膨大なリソースとユーザーチームが必要になります。 Wang博士とCarnegie(カーネギー)の同僚 Alexander、Hauri、Nittler、Shireyyなど、世界中のポスドク研究者と客員科学者が日常的にイオンマイクロプローブ施設を訪れます。 そこは確かに興奮する場所です。
このユニークな機器の価格を訊かないわけにはいきません。「この機器は購入したとき約150万ドル(1億8,000万円)でした」と、Wang博士はイオンガンと試料チャンバーが搭載されたフランス製機器を指しながら言います。
Wang博士は、腕をさっと一振りして長いフライトチューブと巨大な磁石が付いたイオンプローブを手に取ります。 「これは社内開発したものです。おそらく数十万ドル(数千万円)を費やしましたが、同じサイズの商業用を購入すると400万ドル(4億8100万円)から450万ドル(5億4100万円)はするでしょう。」
次世代のマイクロプローブ
Wang博士は、隣の部屋で次世代のマイクロプローブであるナノSIMSを少しだけ見せてくれました。 それには、ビームサイズがはるかに小さく、磁石がはるかに大きいという利点があります。 その磁石によって7つの配列された検出器を搭載することができるため、同時に7つの異なる質量(同位体)を測定することが可能です。 大きいSIMSマシンには1つしか検出器がないため、異なる同位体を測定したい場合は、磁石を交換して各同位体の質量を調整して、別のセッションで測定しなければなりません。
Wang博士はラボの新しいイオンマイクロプローブであるナノSIMSの機能について説明する。隕石の中の小さいダイヤモンドやダイヤモンドの微細な内包物をなどのさらに小さな試料の分析が可能である。 写真:Duncan Pay/GIA、提供:Carnegie Institution of Washington(ワシントン・カーネギー研究所)。
新しい測定器の真空チャンバーも優れており、水素のような軽元素を測定に重要です。 その二段構造のサンプルチャンバーにより、研究者はより高い真空状態を作ってほぼすべての汚染物質を排除することができます。 小さいビームサイズによって隕石中の最も小さい粒子を分析できるので、研究者は太陽系形成前に取り込まれた超新星の残骸をサンプリングすることができます。ダイヤモンド同位体研究への関心の他に、Wang博士が抱える未解決の問題の一つは、月面の水に関する疑問です。DTMの同僚であるErik Hauri博士と一緒にこれに取り組んでいます。 月の石と月の石鉱物中の火山ガラスを分析すると、予想よりも水分含有量が高いことがわかりました。 現在の理論では、火星サイズの惑星体が古代の地球に衝突した結果、月が形成され、その月が何らかの方法で岩石や鉱物の水を保持することができると考えられています。
また、ダイヤモンドの小さな内包物や初期の太陽系の埃の痕跡など、最も小さな自然の特性の分析によって地球史を上回る画期的な発見が導かれると、私たちは再認識しました。 私たちは、今後もWang博士と連絡を取り合い、近い将来に研究のアップデートをお届けする予定です。