合成宝石素材入門
合成宝石素材はラボラトリーで製造されますが、実質的にすべての化学的、光学的、物理的特性を天然の鉱物と共有しています。しかし中には合成トルコ石や合成オパールのように、余分な化合物が存在する場合もあります。
合成宝石の結晶は1800年代終盤以降から製造されており、その生産は、宝石産業以外で工業用に応用するという需要から来ている場合が多くあります。 最初の成功は、ファセットカットできる品質の合成ルビーの生産でした。 合成結晶は、通信とレーザー技術、マイクロエレクトロニクス、研磨剤などに利用されています。 宝飾品に使用するための合成石は、適正な材料、時間、およびそれらを育成する設備があれば「注文製造」できる(すなわち一貫した色と結晶形で製造できる)ので、同等のサイズ、クラリティ、色の彩度の天然宝石よりもはるかに希少ではないこともあります。 このため、またさらには、天然に産出する宝石と混同される可能性があるので、合成宝石結晶がどのように市場に出て販売されるかに関する厳密なガイドラインがあります。
米国ではFederal Trade Commission (連邦取引委員会)は、ラボラトリーで製造される宝石素材が天然に生産されなかったという点に全く疑いが残らないように記述されることを求めています。 販売チャネルの全体を通じた製造業者から消費者までの販売の時点において、合成宝石素材の起源をはっきりと情報開示していない場合、詐欺的慣行であると考えられます。 また、アメリカ宝石取引協会(AGTA)、国際色石宝石協会(ICA)、国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO)など多くの業界団体があり、販売時の合成石の情報開示に関して会員のための特定の指針を策定しています。
過去10年間に販売された新種の人工宝石素材は減っています。 これは、合成宝石素材のレパートリーが新しい物質の創出という点でほぼ限界に達したことを示唆していますが、生産面でいえばこれらは非常に重要でありまだ限界には来ていません。 前世紀では研究者は、これらの合成宝石素材をラボで創出する数多くのいろいろな方法を開発しました。 その方法のほとんどは、主に融液法と溶液法の2つのカテゴリに分類されます。
融液法では、融液の化学成分は生じる結晶の成分と同じです。 溶液法では、溶液又は溶融物には生じる結晶とは異なる化学成分が含まれます。 成分は高い温度で溶液または溶融物に溶解され、溶融温度が下がるにしたがってまず種結晶の上に結晶が形成されていきます。 主な合成プロセスには次のようなものがあります。
火炎溶融またはベルヌイ法(溶融法)
初めて商業的に成功した合成宝石は、火炎溶融法によって作られました。 このプロセスでは高温の火炎の中に粉末状の化学物質を滴下させ、そこで粉末が溶融し回転台上に落下し合成結晶を作り出します。 今日でもこの方法は、合成コランダムやスピネルなどの宝石を作る最も安価で最も一般的な方法となっています。
結晶引き上げ法またはチョクラルスキー法(溶融法)
引き上げ法は、1900年代初頭に登場しました。 このプロセスでは、原料がるつぼ内で溶融し、融液に浸漬された種結晶から合成結晶が成長し、その後成長するにつれて徐々に結晶を溶融液から引き上げていきます。 引き上げ法によって合成される宝石には、合成のアレキサンドライト、クリソベリル、コランダム、ガーネットなどがあります。
フラックス法(溶液法)
現在、エメラルド、ルビー、サファイア、アレキサンドライト、スピネルなど一部の合成宝石は、フラックス成長法で製造することができます。 フラックスは固形物質で、溶融すると水が砂糖を溶かすのと同じように他の素材を溶かします。 溶解した化学溶液が徐々に冷却し、合成結晶が形成されます。
フラックス法により合成宝石を成長させるには忍耐とかなりの投資が必要です。 結晶の成長には一年かかることもあり、また機器が非常に高価です。 しかし結果は、特にエメラルドとなると、時間をかけ努力する十分な価値があります。
熱水成長法(溶液法)
フラックス法と同様に、熱水成長法は時間がかかり高価につきます。 しかし、これは合成クオーツを成功裡に成長させる唯一の方法です。 このプロセスは熱と圧力を必要とし、天然宝石の形成をもたらす地球深部の状態を模倣します。 原料を水溶液に溶解し、その溶液が冷却するにつれて合成結晶が形成されます。
以下のリストは一般的に見られる合成石を挙げたものですが、長年の間には実験的な合成宝石もありました。 そうしたものには、マラカイトやカラーチェンジタイプの合成スピネルなどが含まれます。 しかし、これらの製品は自然界でより容易に作り出されるので、今日ではあまり見かけません。 次に挙げるのは、見かける可能性がより高い合成宝石の例です。
合成ダイヤモンド(これは頻繁には見られません)
ラボで成長されるこれらのダイヤモンドでは、特性の多くが天然ダイヤモンドと共通していて、どちらも基本的に炭素でできています。
化学蒸着(CVD):化学反応により炭素原子を放出させダイヤモンド種結晶上に沈殿させるという、真空容器内でのダイヤモンドの成長です。
高圧高温(HPHT)法:より高い温度で炭素を溶解する溶融フラックスによるダイヤモンドの成長で、ダイヤモンドは成長容器内部の低温部で種結晶上に形成されます。
合成コランダム(広く入手可能)
ルビーおよびサファイアを含む合成コランダムを作ることができる方法は、非常に多くあります。 このため、合成コランダムは非常に手頃な価格から非常に高価なものまで、さまざまな価格水準があります。
ルビー:1800年代終盤にAuguste Verneuil(オーギュスト ベルヌイ)によって、ルビーはラボで作られた最初の宝石となりました。 1902年、彼はこの美しい宝石を合成する火炎溶融法の開発を発表しました。
サファイア: 合成サファイアの最も初期のいくつかの実例は、アールヌーボーやアールデコの宝飾品のオリジナル作品に見られます。 多くの合成サファイアは依然として火炎溶融法によって作られていますが、フラックス成長サファイアは1960年代から入手可能となりました。 フラックス成長法や、結晶引き上げ法、熱水法などによる合成サファイアは、天然宝石の代替品として非常に説得力があります。 アレキサンドライトを模倣して作られたカラーチェンジ合成サファイアは、1900年代初頭以来人気があります。 一部の合成ルビーやサファイアでは、誘発されたインクルージョンによってスター効果を生じさせることができました。
合成エメラルド(広く入手可能)およびその他のベリル(珍しい)
合成ベリルは、イエロー、レッド、ブルー(アクアマリン)、グリーン(エメラルド)を含め、多くの色で入手可能です。 1980年代終盤から1990年代に、ロシアはこれらの合成宝石の大生産者となり、今でも合成ダイヤモンドや合成アレキサンドライトのような他の合成石と共に、これらの合成ベリルおよび合成コランダムなどの熱水法成長合成宝石の主要サプライヤーです。
エメラルド: 1930年代終盤に科学者達は遂に、この望ましい濃緑色宝石の商業的に採算のとれるフラックス成長版の合成に成功しました。 宝飾品向けの熱水法合成エメラルドは1960年に舞台に登場しました。
合成クオーツ(広く入手可能)
シトリン、ローズクォーツ、スモーキークォーツ、アメシストなどの宝石品質のクォーツは魅力的です。 しかし、天然宝石品質クオーツは豊富であり、希少性という理由で宝石品質クォーツの合成法を研究者が苦労して開発したのではありません。 その理由は、クォーツが技術面で重要な役割を果たしているからです。 クォーツは圧力を受けると電流を起こし、交流電流に正確に反応して振動することができます。 こうした機能から、時計類、通信機器、フィルタ、発振器などに実用的に使用されています。
アメシスト:ラボ成長のアメシストおよび他の合成クォーツ変種は、産業用途への応用のために開発された後、宝飾品としての道を見つけました。 最初の熱水法合成クォーツは、1890年代にラボに登場しました。 合成クォーツが広く市販されるようになったのは、第二次世界大戦の頃でした。
合成スピネル(広く入手可能)
20世紀初め、合成ブルーサファイアを成長させようとしていた研究者は、偶然に合成ブルースピネルを作り出しました。 それ以来合成スピネルは、多くの天然宝石の代用として一般的に使用されてきました。 1990年代には、新しいロシア製のフラックス法成長合成スピネルが市場に参入しました。これには、古い火炎溶融法プロセスでは手に入りにくい色であったレッドスピネルを含む、さまざまな色がありました。
合成オパール(時折見られる)
1970年代にギルソン社は、模造石として十分な品質となる合成オパールを作るために3段階のプロセスを開発しました。 まず、シリカの微細な球体を沈降によって生成します。 次に、その球体を一年以上酸性水に入れておきます。 最後に、オパールの遊色効果を創出する球体の積層配列を歪めることなく、油圧プレスで球体を固めます。
合成アレキサンドライト(珍しい)
需要を満たすために十分な天然アレキサンドライトがないので、過去数十年間さまざまな合成石が市場に登場しています。 アレキサンドライトは、チョクラルスキー法、フローティングゾーン法、フラックス法を含め、多様なプロセスによって合成されてきました。 また、変色効果を伴う合成コランダムは天然アレキサンドライトを模倣するのによく使用されます。 稀に、合成カラーチェンジ スピネルに市場で遭遇する可能性もあります。